ぴんと伸びた、その背。成人男性としては決して上背がある方ではなく、体格が良い訳でもないその人は、それでも大きな背を持っている。纏う雰囲気や周囲に与える影響、それが実際は華奢と表現しても差し支えない身体を酷く大きなものに見せている。
 いつか、壁外から凱旋した姿を目にしたとき、遠目に見たその横顔だけで圧倒されたことをエレンは未だに憶えている。子供だったその当時は、"人類最強"の名を持つ人間とはこれほどのものなのだと単純に感心した。すごい、オレもそうなりたい、そんな憧れと共に調査兵団に対する思いを募らせた。

 その背の大きさは、そのままこの人の、―――リヴァイの、兵長としての覚悟の重さなのだと、同じ重しを抱えることになって漸くエレンは理解した。

 訳も分からず発現した巨人化能力の所為で、エレンは突然リヴァイと並ぶほどの"人類の希望"となってしまった。自身が巨人になることで、母の敵である巨人を駆逐出来る。それはエレンにとっては吉報だった。今のエレンの行動原理は、全て巨人の駆逐にある。そのための力を手に入れて、喜ぶ以外に何の感情を抱くというのか。
 そう思えていたのは、僅かな時間だけだった。トロスト区で自分を守るために巨人に喰われていった人たち。調査兵団に入団した直後のジャンの言葉。エレンがどう思っていようと、"希望"になるとは、そういうことだった。エレンのために誰かが死ぬ。エレンによって守られる命がある一方で、エレン個人のために奪われていく命があるのだ。彼らがエレンに抱くのは怨嗟だけではない、人類の未来を託して死んでいく。


 今まさに失われた命を見届けて、リヴァイが立ち上がる。緩やかに熱が失われていく欠損だらけの体は、先の調査で巨人に襲われた調査兵のものだ。部下であるその男の想いを、希望を託されたリヴァイは、伸ばされた手をしっかりと握り、それを受け止めた。背負った。そして数秒の黙祷の後に立ち上がった背は、まさしく"希望"だった。
 迷いなど見られない、力強く大きな背中。そこにはどれだけの人間の期待が乗せられているのか。それを背負い続けることはどれだけの重責なのか。

 ―――どうやって、それに耐えているのか。

 耐えているという素振りさえ見せずに凛と立ち続けることが、どれだけの苦悩か。嫌でもこれからエレンは体験することになる。今でさえ抱えたものに怖気づきそうになっているというのに、それ以上のものと、これから。

(……やれるかじゃない、やるしかないんだ。分かってるだろ、覚悟決めろよ)

 制御が危うい力でも、それを手に立ち上がらなければならない。この人のように。例え見せ掛けだけでも、この人と並びうる"希望"となれるように。
 並びたい背中が遠ざかっていくのを、震える足に阻まれてただ見つめるしか出来ないエレンは、それでもその背から目を逸らさなかった。いつか期待を背負いきれる強さを手に入れる日まで、それまでは自分もその背に重しを増やしてしまうことを謝罪しながら。


強くなりたい理由なんて
(自分の為だけのままだったら、良かった)


人類の未来とか、15歳が背負うには重すぎるよねって話……?


title by たとえば僕が