巨人、エレン・イェーガー討伐。
その一報がリヴァイのもとに届いたのは、エレンが壁外に旅立って3日目の夜だった。そのとき、リヴァイはエルヴィンの執務室に居た。そこに血の気が引いた顔をしたハンジが駆け込んできて、震えた声でそれを告げた。がたりと音を立てて立ち上がったエルヴィンを視界の端に留めながら、二人して珍しい顔してるな、なんて何処か他人事のように思っていた。
両側から向けられる視線に、この場を辞すべきなのだろうと感じて自室に戻り、今に至る。堅いベッドに腰を下ろして、何となく自身の手のひらに視線を落とす。それは震えることもなく、いつも通りの堅い手のひらでしかなかった。そこには動揺が見て取れることはない。
そう、動揺も激情もない。悲しみも、怒りも、なにひとつ。あるのは、ただ虚無感だけだ。
駆逐されて巨人の数が減っていき、それに反比例するように民衆の間で高まるエレンへの恐怖感。人類全体に広がっていったそれを覆すことは、容易ではなかった。
同期や一部の調査兵以外は、誰もエレンに話しかけない。近寄らない。巨人を殺せば殺すほどエレンは孤独になっていった。少しずつ少しずつ、言葉も笑顔も消えていって。あの幼馴染達とすら距離を置くようになっていって。その姿に、エレンは周囲が自分をどう見ているか、どうする気なのか疾うに知っている、そうリヴァイは悟った。
そんなエレンの傍に最後までいることが許されたのはリヴァイだった。監視役で抑制役、そして上官。立場上エレンがリヴァイを遠ざけることができた筈はなかったが、エレン自身がリヴァイを避けようとしなかったのも事実だった。段々と表情が削げ落ちていったエレンは、それでもリヴァイには笑顔を見せることもあった。それが意味するところを人生経験で上回るリヴァイが気付かない訳はない。それでもエレンが何も言わない以上、現状維持が望みなのだろうとその事実に触れることはしなかった。
その結果が、今だ。エレンは帰ってこなかった。壁外で、リヴァイの知らないところで死んで、遺体もない。ただ、死んだ、とそれだけだ。
エレンを排除しようとする勢力があることは分かっていたし、それに対抗する手立ても整えていた。減ってきたとはいえ、未だ壁外には巨人が存在しており、駆逐にはエレンの力が必要だ。だからまだ動くことはなく、今回のリヴァイと引き離しての壁外調査も様子見に過ぎないというのがエルヴィンの判断で、それにリヴァイも同意していた。
だが、その推測はあっけなく崩された。いや、推測自体は間違っていなかった。相手側にとっても、これは予想外の事態だったらしい。お互い、恐怖に曝された人間の弱さと行動力を甘く見ていたのだろうか。いや、それ以上にエレンの意思を読み違えていた。そう、リヴァイは思った。
きっとエレンは、疲れていた。何もかもに疲れていたのだろう。だから、エレンは巨人化することもなく殺されたのだ。エレンが巨人化して抵抗していたのなら、同行していた兵士たちの被害があの程度の訳はないし、そもそもエレンを討伐なんてできたとは思えない。
人を殺してまで、そうまでして生きる理由が、エレンにはもう見つからなかったのだろう。だから。
ぼんやりと石造りの天井を見上げるリヴァイの脳裏に、最後に別れたときのエレンの姿が蘇る。いってきます。そう笑ったエレンを素っ気なく送り出した。僅かに引き留める仕草をした指先に気付かない振りをして。その判断は正しかったのだろうか。
エレンを取り巻く状況は、誰より理解していた。それでも何も言わず、ただ見守ることを選んだ。それはエレンの意思を尊重しようと思ったからだった。でも、それは間違いだったのだろうか。エレンの心情を、理解できていなかったということなのか。もし、リヴァイがエレンの隠した感情を無理矢理にでも暴いていたら。そうしていたら、生にしがみついていただろうか。
ここに、戻ってきていただろうか。
襲いくる虚脱感に抗うのも面倒で、そのままベッドに倒れ込む。沈み込む、重すぎる身体。自分のものとは思えないそれに舌打ちを零す。リヴァイのその動作に大げさなまでに肩を揺らしていた少年はもういない。
(兵長)
耳に残る、少し高い声。それはもう戻らない。後悔なんてする権利が自分にある訳がない。あの手を、放してしまった、自分には。
その一報がリヴァイのもとに届いたのは、エレンが壁外に旅立って3日目の夜だった。そのとき、リヴァイはエルヴィンの執務室に居た。そこに血の気が引いた顔をしたハンジが駆け込んできて、震えた声でそれを告げた。がたりと音を立てて立ち上がったエルヴィンを視界の端に留めながら、二人して珍しい顔してるな、なんて何処か他人事のように思っていた。
両側から向けられる視線に、この場を辞すべきなのだろうと感じて自室に戻り、今に至る。堅いベッドに腰を下ろして、何となく自身の手のひらに視線を落とす。それは震えることもなく、いつも通りの堅い手のひらでしかなかった。そこには動揺が見て取れることはない。
そう、動揺も激情もない。悲しみも、怒りも、なにひとつ。あるのは、ただ虚無感だけだ。
駆逐されて巨人の数が減っていき、それに反比例するように民衆の間で高まるエレンへの恐怖感。人類全体に広がっていったそれを覆すことは、容易ではなかった。
同期や一部の調査兵以外は、誰もエレンに話しかけない。近寄らない。巨人を殺せば殺すほどエレンは孤独になっていった。少しずつ少しずつ、言葉も笑顔も消えていって。あの幼馴染達とすら距離を置くようになっていって。その姿に、エレンは周囲が自分をどう見ているか、どうする気なのか疾うに知っている、そうリヴァイは悟った。
そんなエレンの傍に最後までいることが許されたのはリヴァイだった。監視役で抑制役、そして上官。立場上エレンがリヴァイを遠ざけることができた筈はなかったが、エレン自身がリヴァイを避けようとしなかったのも事実だった。段々と表情が削げ落ちていったエレンは、それでもリヴァイには笑顔を見せることもあった。それが意味するところを人生経験で上回るリヴァイが気付かない訳はない。それでもエレンが何も言わない以上、現状維持が望みなのだろうとその事実に触れることはしなかった。
その結果が、今だ。エレンは帰ってこなかった。壁外で、リヴァイの知らないところで死んで、遺体もない。ただ、死んだ、とそれだけだ。
エレンを排除しようとする勢力があることは分かっていたし、それに対抗する手立ても整えていた。減ってきたとはいえ、未だ壁外には巨人が存在しており、駆逐にはエレンの力が必要だ。だからまだ動くことはなく、今回のリヴァイと引き離しての壁外調査も様子見に過ぎないというのがエルヴィンの判断で、それにリヴァイも同意していた。
だが、その推測はあっけなく崩された。いや、推測自体は間違っていなかった。相手側にとっても、これは予想外の事態だったらしい。お互い、恐怖に曝された人間の弱さと行動力を甘く見ていたのだろうか。いや、それ以上にエレンの意思を読み違えていた。そう、リヴァイは思った。
きっとエレンは、疲れていた。何もかもに疲れていたのだろう。だから、エレンは巨人化することもなく殺されたのだ。エレンが巨人化して抵抗していたのなら、同行していた兵士たちの被害があの程度の訳はないし、そもそもエレンを討伐なんてできたとは思えない。
人を殺してまで、そうまでして生きる理由が、エレンにはもう見つからなかったのだろう。だから。
ぼんやりと石造りの天井を見上げるリヴァイの脳裏に、最後に別れたときのエレンの姿が蘇る。いってきます。そう笑ったエレンを素っ気なく送り出した。僅かに引き留める仕草をした指先に気付かない振りをして。その判断は正しかったのだろうか。
エレンを取り巻く状況は、誰より理解していた。それでも何も言わず、ただ見守ることを選んだ。それはエレンの意思を尊重しようと思ったからだった。でも、それは間違いだったのだろうか。エレンの心情を、理解できていなかったということなのか。もし、リヴァイがエレンの隠した感情を無理矢理にでも暴いていたら。そうしていたら、生にしがみついていただろうか。
ここに、戻ってきていただろうか。
襲いくる虚脱感に抗うのも面倒で、そのままベッドに倒れ込む。沈み込む、重すぎる身体。自分のものとは思えないそれに舌打ちを零す。リヴァイのその動作に大げさなまでに肩を揺らしていた少年はもういない。
(兵長)
耳に残る、少し高い声。それはもう戻らない。後悔なんてする権利が自分にある訳がない。あの手を、放してしまった、自分には。
君が上手に隠した本音
(気付いていたのに見ない振りをした自分に嘆く資格なんてない)
兵長が好きすぎて生きるのが辛い……
いい加減いちゃいちゃしてる二人を書きたいものです。
title by たとえば僕が
いい加減いちゃいちゃしてる二人を書きたいものです。