*現パロ リーマン×大学生
「誕生日は何が欲しい」
リヴァイの部屋での夕食後、ソファに腰かけてテレビに視線をやっていたエレンは、その唐突な問いの意味がすぐには理解出来なかった。数秒かけてその内容を反芻して、―――思わず両手で口を塞ぐ。喉元まで来ていた、俺の誕生日憶えてたんですか、という失礼な言葉を飲み込むためだ。
もちろん嫌味などではなく純粋な驚きからの言葉ではある。かといって、そんな言葉を迂闊に返す訳にはいかない。この部屋の主であり、先程の問いを投げかけてきた人物でもあるリヴァイは、エレンにとって恋人と呼んでいい存在ではあるが、それとこれとは別だ。決して冷たい人物ではないが、分かりやすく優しい人でもないのだ。うっかりそんなことを口にしてしまった後、自分にどんな災難が降りかかるのか、考えることすら恐ろしい。
言葉を発さなかったところで、一連のエレンの様子はどうみても挙動不審だ。その動作を見ていれば、勘のいいリヴァイならエレンの思考を察しただろうが、幸運にもリヴァイは夕食で使った食器を洗っている最中だったため、エレンに背を向けていた。
エレンがリヴァイの部屋に泊まるときは、エレンが夕食の準備をし、リヴァイが食後の片付けを担当する。何となく決まっていた役割分担に、エレンは今、心から感謝した。
洗い終わったのか、キッチンの水音が止まり、手を拭きながらリヴァイが振り向く。返答が無いことに怪訝な視線を向けてくるその表情を見て、エレンは慌てて問いの答えを探し始めた。ほしいもの、ほしいもの。呪文のように呟いてみるものの、焦った頭は空回るばかりで何も答えを弾き出してはくれない。
困り果てたエレンがリヴァイを見上げると、年上の恋人は呆れたような溜息を零した。
「何もねぇのか」
「いや、ない訳じゃないんです、けど……」
もごもごと言い澱むエレンに、リヴァイは眉間の皺を深くする。気が長くないこの人は、こういったはっきりしない返答を何より嫌う。スリッパの軽い足音と共にこちらに向かってくる空気に、苛つきが混じっていることを敏感に感じ取ったエレンの背中を嫌な汗が伝う。
夜はこっちがうんざりするほど気が長いというか、しつこい癖に。具体的な言葉にするまで延々ねちっこく焦らしたりする癖に。もう少し普段もその余裕を持てないものか。いや、普段からねちっこいのも嫌だな。
そんな現実逃避にもならないことを考えている間に、リヴァイはエレンの前に立ちはだかった。その不機嫌さを隠そうともしない雰囲気に、顔を上げられないままもう一度思考を元に戻す。
そもそも、リヴァイがエレンの誕生日を憶えているとは正直思っていなかった、というのがエレンの素直な感想だ。リヴァイの誕生日を知りたくて、聞く流れを作るために自分の誕生日を教えたことはあった。しかし、リヴァイはその話題に気が無い様子だったし、何よりそういった記念日に執着する人でないことは承知していた。実際、リヴァイ自身の誕生日はエレンから言われるまで忘れていたのだ。
予想もしていなかったのだから、突然欲しいものを聞かれたところで答えられなくても仕方ないだろうとも思う。―――思う、が。欲しい"物"を挙げることの出来ない理由が、他にあることは問いかけられたその瞬間に分かっていた。
そう、エレンが欲しいものはある。それはリヴァイにしか与えることのできないものだ。例えば、一緒に食事をするだとか。他愛のない話をするだとか。下らないテレビ番組を見て笑いあうだとか。つまるところ、エレンがリヴァイから欲しいものは、リヴァイ自身の時間だ。それをエレンと共に居て、エレンのために使って欲しい。
女じゃないんだから、という気恥ずかしさもあるが、それ以上にリヴァイの忙しさを知る身としては、到底告げられる願いではなかった。
ぐ、と膝の上に置いた手を握り締める。目の前のリヴァイの沈黙が痛い。でも、答えることは出来ない。
どうしようもなく欲しいものは強請ってはいけないもので、それ以外に欲しいものなんて思いつかない。忙しいこの人は、何か物の名前を挙げれば安心するのかもしれないが、きっとどんなものを貰っても、エレンは何処か虚しくなるだろう。そんなのは、嫌だ。
「……しょうがねぇな」
俯いたままのエレンの耳に届いた声は、予想外に優しいものだった。反射的に顔を上げようとするが、上から手で押さえつけられる。そのまま乱暴な手付きで髪をかき乱されて、ようやくリヴァイの顔を見るのを許される頃には、すっかりぐしゃぐしゃにされていた。状況が把握できないまま乱れた前髪の隙間から覗くリヴァイの表情は穏やかで、いつのまにか纏う空気も柔らかく緩んでいる。
めったにない程に上機嫌の恋人に、エレンは首を傾げる。ついさっきまで不機嫌だった筈なのに、一体なにが彼のお気に召したのか。不思議そうな表情をしてみせるエレンを見て、リヴァイはまた愉しそうに笑う。
「誕生日、空けとけ。お前の欲しいモン買いに行くぞ」
「え!?」
「……これでいいんだろう?」
にやり。そんな音が聞こえなそうなほどに含みのある笑みを向けられて、エレンに選択権なんてある筈がない。そもそも、なにより望んでいたものを差し出されたのだ。一も二もなく頷けば、犬みてぇだなと軽く小突かれる。
ここまで完璧に思考を読まれると、勘が良いとか察しが良いとかのレベルではないのではないだろうか。もしかしたらリヴァイは超能力でも持っていて、本当にエレンの頭の中を覗かれているのかもしれない。
例えそうだったとしても、問題ない。リヴァイは上機嫌だし、エレンは望み通りの誕生日を迎えられそうなのだから。
……もしかしたら、誕生日を憶えてないと思っていたという、リヴァイにとって不愉快極まりない考えも筒抜けだったかもしれないとしても。
「誕生日は何が欲しい」
リヴァイの部屋での夕食後、ソファに腰かけてテレビに視線をやっていたエレンは、その唐突な問いの意味がすぐには理解出来なかった。数秒かけてその内容を反芻して、―――思わず両手で口を塞ぐ。喉元まで来ていた、俺の誕生日憶えてたんですか、という失礼な言葉を飲み込むためだ。
もちろん嫌味などではなく純粋な驚きからの言葉ではある。かといって、そんな言葉を迂闊に返す訳にはいかない。この部屋の主であり、先程の問いを投げかけてきた人物でもあるリヴァイは、エレンにとって恋人と呼んでいい存在ではあるが、それとこれとは別だ。決して冷たい人物ではないが、分かりやすく優しい人でもないのだ。うっかりそんなことを口にしてしまった後、自分にどんな災難が降りかかるのか、考えることすら恐ろしい。
言葉を発さなかったところで、一連のエレンの様子はどうみても挙動不審だ。その動作を見ていれば、勘のいいリヴァイならエレンの思考を察しただろうが、幸運にもリヴァイは夕食で使った食器を洗っている最中だったため、エレンに背を向けていた。
エレンがリヴァイの部屋に泊まるときは、エレンが夕食の準備をし、リヴァイが食後の片付けを担当する。何となく決まっていた役割分担に、エレンは今、心から感謝した。
洗い終わったのか、キッチンの水音が止まり、手を拭きながらリヴァイが振り向く。返答が無いことに怪訝な視線を向けてくるその表情を見て、エレンは慌てて問いの答えを探し始めた。ほしいもの、ほしいもの。呪文のように呟いてみるものの、焦った頭は空回るばかりで何も答えを弾き出してはくれない。
困り果てたエレンがリヴァイを見上げると、年上の恋人は呆れたような溜息を零した。
「何もねぇのか」
「いや、ない訳じゃないんです、けど……」
もごもごと言い澱むエレンに、リヴァイは眉間の皺を深くする。気が長くないこの人は、こういったはっきりしない返答を何より嫌う。スリッパの軽い足音と共にこちらに向かってくる空気に、苛つきが混じっていることを敏感に感じ取ったエレンの背中を嫌な汗が伝う。
夜はこっちがうんざりするほど気が長いというか、しつこい癖に。具体的な言葉にするまで延々ねちっこく焦らしたりする癖に。もう少し普段もその余裕を持てないものか。いや、普段からねちっこいのも嫌だな。
そんな現実逃避にもならないことを考えている間に、リヴァイはエレンの前に立ちはだかった。その不機嫌さを隠そうともしない雰囲気に、顔を上げられないままもう一度思考を元に戻す。
そもそも、リヴァイがエレンの誕生日を憶えているとは正直思っていなかった、というのがエレンの素直な感想だ。リヴァイの誕生日を知りたくて、聞く流れを作るために自分の誕生日を教えたことはあった。しかし、リヴァイはその話題に気が無い様子だったし、何よりそういった記念日に執着する人でないことは承知していた。実際、リヴァイ自身の誕生日はエレンから言われるまで忘れていたのだ。
予想もしていなかったのだから、突然欲しいものを聞かれたところで答えられなくても仕方ないだろうとも思う。―――思う、が。欲しい"物"を挙げることの出来ない理由が、他にあることは問いかけられたその瞬間に分かっていた。
そう、エレンが欲しいものはある。それはリヴァイにしか与えることのできないものだ。例えば、一緒に食事をするだとか。他愛のない話をするだとか。下らないテレビ番組を見て笑いあうだとか。つまるところ、エレンがリヴァイから欲しいものは、リヴァイ自身の時間だ。それをエレンと共に居て、エレンのために使って欲しい。
女じゃないんだから、という気恥ずかしさもあるが、それ以上にリヴァイの忙しさを知る身としては、到底告げられる願いではなかった。
ぐ、と膝の上に置いた手を握り締める。目の前のリヴァイの沈黙が痛い。でも、答えることは出来ない。
どうしようもなく欲しいものは強請ってはいけないもので、それ以外に欲しいものなんて思いつかない。忙しいこの人は、何か物の名前を挙げれば安心するのかもしれないが、きっとどんなものを貰っても、エレンは何処か虚しくなるだろう。そんなのは、嫌だ。
「……しょうがねぇな」
俯いたままのエレンの耳に届いた声は、予想外に優しいものだった。反射的に顔を上げようとするが、上から手で押さえつけられる。そのまま乱暴な手付きで髪をかき乱されて、ようやくリヴァイの顔を見るのを許される頃には、すっかりぐしゃぐしゃにされていた。状況が把握できないまま乱れた前髪の隙間から覗くリヴァイの表情は穏やかで、いつのまにか纏う空気も柔らかく緩んでいる。
めったにない程に上機嫌の恋人に、エレンは首を傾げる。ついさっきまで不機嫌だった筈なのに、一体なにが彼のお気に召したのか。不思議そうな表情をしてみせるエレンを見て、リヴァイはまた愉しそうに笑う。
「誕生日、空けとけ。お前の欲しいモン買いに行くぞ」
「え!?」
「……これでいいんだろう?」
にやり。そんな音が聞こえなそうなほどに含みのある笑みを向けられて、エレンに選択権なんてある筈がない。そもそも、なにより望んでいたものを差し出されたのだ。一も二もなく頷けば、犬みてぇだなと軽く小突かれる。
ここまで完璧に思考を読まれると、勘が良いとか察しが良いとかのレベルではないのではないだろうか。もしかしたらリヴァイは超能力でも持っていて、本当にエレンの頭の中を覗かれているのかもしれない。
例えそうだったとしても、問題ない。リヴァイは上機嫌だし、エレンは望み通りの誕生日を迎えられそうなのだから。
……もしかしたら、誕生日を憶えてないと思っていたという、リヴァイにとって不愉快極まりない考えも筒抜けだったかもしれないとしても。
それでも満足しちゃう自分はどうしようもないです
(あなたといられるなら、何でも構わない!)
ほのかにドSとドMの香りがしますが、いちゃいちゃしてるだけなので無問題。
title by たとえば僕が