触るな。


「わぁ、ルーク様の髪ってサラサラですねー」


 触るな触るな。


「あら……本当ね」


 ――――― 勝手に、触るな。





「……何で機嫌悪ぃんだよ、お前」

 かけられた声に視線を上げると、自身よりよほど機嫌の悪そうな顔をしたルークが立っていた。その様子に、適当に相手をしていては余計に長引きそうだ、と判断して、手入れをしていた剣を鞘に収め、脇に置く。

 とはいえ、どう言ったものか。
 理由はない訳ではないが、 ―――― かといって、説明出来るものでもない。誤魔化す方法を考える時間稼ぎのつもりで、俺のことを気にするなんて珍しいな、なんて茶化して。相変わらず不機嫌な顔で告げられた返答に、訊かなければ良かった、と後悔する。

「だってよー、ティアが、俺がガイに何かしたんだろって怒るんだよな。知らねー、って言ってんのに」

 どくん、と。どす黒いものが体中を支配する。
 ティア、が? ティアがそう言ったから?ティアが怒ったから、お前は俺のところに来たって?
 ――――― 何だよ、それは。

「・・・・・・・お前が、他人の言うことを素直に聞くなんてな」

 皮肉気な俺の呟きに、ルークは眉を顰める。何故俺の機嫌が悪いのか、本当に全く分からないのだろう。……分かる筈なんかない。これ、は。
 ――――― ただの、嫉妬だ。

 邸からティアと共に吹き飛ばされて。やっとの思いで見つけ出したルークは、たった、ほんの僅かしか経っていない筈なのに、自分の知る゛ルーク゛とは変わってしまっていて。
 邸にいた頃のルークは、誰が注意したって聞く耳なんか持たなかった。母親に諭されたときだって、こんな風に誰かを気にかけることはしなかった。

 それに、あの髪を、誰にも触らせたりしなかった。メイドの誰がしようとしたって、嫌がっていた。
 だから、その髪を整えるのは、いつだって俺の仕事だった。その髪に触れられるのは、俺だけだった、筈なのに。

 触れさせて、いた。
 嫌そうにしてはいたものの、振り払ったりしなかった。出会って僅かしか経っていない彼らに。

 一言呟いたきり黙ってしまった俺に、怪訝な視線を送りながらも、ルークは立ち去らずに待っている。
 ちゃんと理由を聞くまでは戻れないのだろう。ティア達が、いるから。

「………」

 その視線に気付かない振りをして、ルークの緋色の髪に手を伸ばす。さら、と以前よりは少し痛んでいるが、変わらず指から流れ落ちる感触。
 ますます分からない、という表情をしながらも、ルークの様子に髪を触られていることに対する嫌悪感は見受けられなくて。
 その事実に、ほんの少し安堵した。


6. 髪の毛を弄る
何だかよく分からない黒ガイ様片想い嫉妬話。 ある意味ではガイ様のろけ話。


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