雲が垂れこめる闇夜に強い光が空を走り、一瞬の間をおいて響く轟音。
 子供の頃は、この雨音を掻き消す大きな音に驚いて泣いたこともあった。ただ怖くて、母さんにしがみついた。母さんは少しだけ笑って、「大丈夫よ」と頭を撫でてくれた。
 その母さんはもういないし、オレも ――――― 音なんかに怖がることはなくなった。

「……何をぼんやりしているんだい」

 窓枠に寄りかかってぼんやりと窓の外の闇を眺めていたオレに、書類を処理しながらも、ずっと気にかけていたのだろう、大佐が声をかけた。
 何を、と言われても何もない。見たとおり、ただ眺めていただけだ。……それだけ、だ。
 それでも、振り返ったオレの顔がやっぱりいつもと違ったのか、大佐はその眉根を寄せる。

 ……そんなに違うかな、オレ。巧く隠しているつもりなんだけど。
 大佐がそういったことに敏いのか、それとも。大佐の前だから、と気が緩んでしまっているのか。


 心配をかけたくなくて、曖昧に笑う。だって、どう言えばいい。こんな、何の根拠もない不安。
 人体練成を行い、母さんに会うという希望を絶たれた日。自分と弟を慕ってくれた少女とその愛犬の命が失われた日。それらの日も、こんな天気だった。
 雷が、その光で、その音で。誰かを、また闇の中に連れ去ってしまうんじゃないか、なんて。そんな不安。「それ」がまた起こるなんていう根拠なんてない。だからこそ、誰も拭い去ることなんて出来ない。

 そんなオレの様子に、納得いかない、とばかりに大佐が眉間の皺を深くする。かたん、と席を立つとオレに近付いてきて。
 そっと、優しく包み込むように抱き締められた。

 いつものように熱を感じるものではなく、ただ労わるように髪を撫でられる。そう、それはまるで。
 いつかの、母さんの手のようで。

「 ――――― 」

 子供扱いするな、とか。たくさん言いたいことはあったけれど。今口を開いたら、嗚咽が漏れてしまいそうだったから。
 だから、ただ黙って、その背に縋った。


25. 雷に怯える
不安なエドさんとおかんな大佐。
ラブラブというか、甘いのが書けません……。最近薄暗ブームが来っ放し。


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