「うっわー! すげー!! 見ろよガイ!! 光ってるぞ!!」

 そう叫ぶなり、ルークは太陽光を反射して煌めく波打ち際へと駆け出した。その後姿に苦笑して、転ぶなよ、と一応声をかける。多分、聞いちゃいないだろうけど。
 7年もの間邸に軟禁され、外の世界なんて話でしか聞いたことのないルークにとって、今は見るもの全てが珍しいのだろう。今も、恐らく初めて見るであろう波と、一人戯れている。長い緋の髪と、その服を水飛沫に濡らしながら。

 宿に戻る前に何とかしないとな、とか、すっかり使用人としての考えが染み付いてしまった自分に苦笑する。そして、自分が始めて波を見たときはどうだっただろう、なんてことがふと頭を過ぎる。
 伯爵家の跡取り息子、と大層な肩書きは持っていたが、ルークのように軟禁されていたことはないし、それに島だったホドでは海も波も、ごく当たり前のものだった。満ちたり引いたり、といったことを不思議には思っただろうが、彼ほど新鮮に感じはしていなかっただろう。
 そう、ルークが世界の色々なものを珍しがり、それを手にすることを喜ぶのは、その全てを、今まで奪われてきたからなのだ。

「 ――― ガイっ!!」

 唐突に名を呼ばれ、知らず俯いていた顔を反射的に向けると、ばしゃ、と冷たいものがふりかけられた。
 僅かに口に入ったそれが塩味を持っていたことから、海水をかけられたのだ、と思い至る。軽く睨むようにしてそっちを見れば、成功した悪戯に満足気な顔をしたルーク。

「へへ、ぼーっとしてるのが悪ィんだぜ」
「お前な……」

 折角真面目に考え事してたのに、とぼやけば、いいじゃんか、とむくれる。
 あぁ、本当に。

「ったく……ほらよっ」
「うぁ! しょっぺぇ!! 何すんだ!!」

 仕返しに、と海水をかけ返してやれば、言葉に反して楽しそうな表情。ティア達の呆れた顔や、ジェイドの厭味が頭を掠めたが、もう濡れてることだし、腹を括ってルークの水遊びに付き合うことにする。
 悲鳴とも歓声ともつかない声を上げて、楽しそうにルークが笑っているのだから。

 あぁ、そうだ。笑っててくれ。お前はそうやって、楽しそうに笑っててくれ。
 本当は、こんなこと望むのはおかしいんだけれど。お前からすべてを奪おうとしている俺が、こんなこと望むなんて。

 ただ、幸せそうに笑っていて欲しいなんて。
 滑稽で、矛盾していて、 ――――― 何て、浅ましい考え。

 こんなの、ただの逃げだろう? ただただ不幸に生きてきた、そんな人間を殺そうとしている自分が嫌なだけだろう? 自分の罪悪感を、少しでも減らしたいだけだろう?
それが、結果として、「そのとき」が来たとき、何よりルークを苦しめることになっても。

 それでも。
 何の屈託もなく笑い、はしゃぐ彼を見ていると。

 やっぱり、ただずっと笑っていて欲しいと。そう、思ってしまうのだ。


37. 海辺で散歩
……散歩してない!!(致命的)
おかしいなぁ。海辺で散歩といえば「待てよー」「捕まえてごらんなさーい」じゃないのか……。


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