その言葉を残して、エドワードはロイを置いて駆け出した。
 たった一言、それだけなのに、それだけでロイはもうその場から動くことが出来ない。本当は、遠くなっていく背を追いかけて、その身体を抱き締めて。振り返って、笑いかけて欲しいのに。
 文字にすればわずか数文字のその言葉の所為で、手を伸ばすことも、呼び止めることすらロイには出来ない。許されたのは、ただそこで一人立ち尽くして、少しでも早くエドワードが帰ってくるよう願うことだけだ。

 分かっている、それは最初から承知の上だった筈だ。何よりエドワードにそうさせたのは他でもないロイ自身だ。エドワードが望みを叶えることなく足を止めてしまうのは、ロイも、エドワード自身も望んでいない。それはエドワードがエドワードでなくなることだ。

 それでも、彼がいない間、ロイの中は何処か虚ろな部分が出来てしまう。陳腐な例えだが、ピースが一つかけたような心持ちがするのだ。
 それだけエドワードが自分の中で大きな比重を占めているということは、ロイにとって誇らしいことと同時に悩みの種でもあった。

 それに敏いエドワードが気付かない訳がない。だから、彼は毎回去り際にこの言葉を残していくのだ。そう、その言葉に隠された、「ここに戻ってくる」という彼の意思。それだけがロイの中の空白を埋めてくれるのだ。

 たったそれだけで満たされてしまうこともまた、困りものだ。
 そうは思うのに、口元が緩んでしまうのを止められない。こんなところを部下に見られたら、間違いなく冷たい視線が向けられることも分かっているのに。

 エドワードが開けっ放しにしていった自身の執務室の扉に視線を向けて、緩んだ表情を隠すように小さく溜め息をつき。山となっている書類に立ち向かうべく、執務机と足を向けた。



(それは約束の言葉)


4. 待ってて