互いに、無言だった。
外の喧騒が微かに届いてはいるが、それ以外に部屋の中に響くのは、陶器のカップが皿と奏でる音だけ。二人が部屋に入ってから、どちらの声も発せられていなかった。
音を立てることを恐れるように、ロイはそっと持ち上げた自身のカップを口に運ぶ。いつもと同じ筈のコーヒーが何故だか苦く感じる。 エドワードは、何もロイに言いはしない。だが、言葉より雄弁にその雰囲気が彼の怒りを伝えてくる。しかも、その怒りの原因にロイは心当たりがある。エドワードがここにくる直前に、已むに已まれぬ事情で女性と食事をしていたのだ。その場所は相手のリクエストで駅の近くとくれば、その場面をエドワードが目撃していたとしてもおかしくない。
我ながら迂闊だったとは思うが、今となっては後の祭りだ。今頭に浮かべるべきなのは後悔の念などではなく、現状を打破するための方策だ。
エドワードの怒りがロイの推測通りならば、それは嫉妬に起因するものであり、それ自体はロイとしても喜ばしいことだ。だが、"普段愛情表現してくれない可愛い恋人の可愛い嫉妬"で済ますには、この恋人は腕が立ち過ぎる。
いかにロイとはいえ、本気になったエドワードを無傷のまま取り押さえることは難しい。自分に非があることを自覚していれば尚更だ。食事程度、どうせ仕事かなんかだろ、と一顧だにされないよりはマシだと、素直に怒りを受け入れてしまうにはリスクが大き過ぎる。
どうにか穏便に宥める方法はないかと思考を巡らせるロイの耳に、唐突に鈍い音が届く。恐る恐る視線を正面に向けると、笑顔のまま拳に握り込んだ左手を右手に打ち込んだエドワードの姿があった。
「ち、違うんだエドワード! それは誤解だ! 私が愛しているのは君だけだ!!」
こうなれば正攻法とばかりに告げるが、エドワードは変わらぬ笑顔のままだ。
ことさらゆっくり開かれる口から発せられる言葉は、さながら天使からの死刑宣告。
「オレも、――― 」
続けられた言葉に、ロイはエドワードの拳で宙を舞う覚悟をひっそりと決めた。
(これも愛情の裏返しと信じたい)
外の喧騒が微かに届いてはいるが、それ以外に部屋の中に響くのは、陶器のカップが皿と奏でる音だけ。二人が部屋に入ってから、どちらの声も発せられていなかった。
音を立てることを恐れるように、ロイはそっと持ち上げた自身のカップを口に運ぶ。いつもと同じ筈のコーヒーが何故だか苦く感じる。 エドワードは、何もロイに言いはしない。だが、言葉より雄弁にその雰囲気が彼の怒りを伝えてくる。しかも、その怒りの原因にロイは心当たりがある。エドワードがここにくる直前に、已むに已まれぬ事情で女性と食事をしていたのだ。その場所は相手のリクエストで駅の近くとくれば、その場面をエドワードが目撃していたとしてもおかしくない。
我ながら迂闊だったとは思うが、今となっては後の祭りだ。今頭に浮かべるべきなのは後悔の念などではなく、現状を打破するための方策だ。
エドワードの怒りがロイの推測通りならば、それは嫉妬に起因するものであり、それ自体はロイとしても喜ばしいことだ。だが、"普段愛情表現してくれない可愛い恋人の可愛い嫉妬"で済ますには、この恋人は腕が立ち過ぎる。
いかにロイとはいえ、本気になったエドワードを無傷のまま取り押さえることは難しい。自分に非があることを自覚していれば尚更だ。食事程度、どうせ仕事かなんかだろ、と一顧だにされないよりはマシだと、素直に怒りを受け入れてしまうにはリスクが大き過ぎる。
どうにか穏便に宥める方法はないかと思考を巡らせるロイの耳に、唐突に鈍い音が届く。恐る恐る視線を正面に向けると、笑顔のまま拳に握り込んだ左手を右手に打ち込んだエドワードの姿があった。
「ち、違うんだエドワード! それは誤解だ! 私が愛しているのは君だけだ!!」
こうなれば正攻法とばかりに告げるが、エドワードは変わらぬ笑顔のままだ。
ことさらゆっくり開かれる口から発せられる言葉は、さながら天使からの死刑宣告。
「オレも、――― 」
続けられた言葉に、ロイはエドワードの拳で宙を舞う覚悟をひっそりと決めた。
(これも愛情の裏返しと信じたい)
3. 殴り倒したいくらい好きだよ
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