君と僕の望みは交わらない
「惚れた女にゃ幸せになって欲しい、ってか」誰に聞かせるでもなく、ぽろりと零れてしまっただけの言葉だったが、すぐ隣にいたこいつには聞こえてしまっていたらしい。怪訝そうに向けられる視線に、内心軽く舌打つ。
その反応が気に食わなかったのか、土方は口にしていた煙草を灰皿に押し付けると、こちらに向き直った。これは、こいつが本気になって話を聞くつもりだということだ。そんな重大な発言じゃない、軽く流してくれていい、むしろ聞き流してくれていい発言だったのに。
「……何だ」
「銀さんは色々物騒なことに絶賛巻き込まれ中なんですけどォ」
あまり突っ込んだことを聞かれたくなくて、誤魔化してしまおうと不戯けた態度で返せば、その眉間に皺が寄る。
こいつは何だかんだいって真面目な奴だから、こういった態度が許せないのだろう。そして何より、こんなときだけはやたらと敏い奴だから、俺が誤魔化したがっていることも当然気付いている。
だったら誤魔化されてくれてもいいのに、と思うが、それをこいつは許さない。先程より更に真剣な表情で、真っ直ぐに射るような視線を向けてくる。
「テメェは女じゃねぇだろ」
敏い癖に馬鹿だこいつ。そこじゃないだろ、そんなことじゃないだろ。俺がそんなことに引っ掛かってると思ってんのか。
そうじゃなくて、そうじゃなくて、
「惚れてない、の方だろ」
またしてもぽろりと零れてしまった言葉に、内心二度目の舌打ち。
何だ今日の俺、センチにも程があるんじゃねーのか。こんなこと、普段の俺なら絶対思わないし、思ったところで絶対口にしたりはしないのに。
あぁ、見ろ。俺がこんなこと言うから、土方が驚いた顔してんじゃねーか。鬼の副長? それ誰?、って感じの馬鹿面晒してるぞ。こんな表情、あのS王子にでも見られた日には、どんな脅迫されるか分かったもんじゃない。
だけど俺はこいつを笑えない。きっと、今の俺はこいつより酷い表情をしている。
「……銀時」
「何ですかー」
溜息と共に名を呼ばれる。その視線に耐えられなくて、何でもないような振りをして背を向けた。
そんな俺にもう一つ溜め息をついて、土方はまた真剣な声音で告げる。
「テメェだから傍に置いておけるんだ」
言葉を失う。なに、言ってんだ、お前。
呆然と床を見つめる俺に構わず、土方は更に言葉を続ける。聞いてはいけない気がして、名を呼ぶことでその言葉を遮ろうとするが、土方は俺の呼びかけなど無視して言い放った。
「だから、テメェは俺を置いていなくなるな」
「……は、」
何とか発せたのは、笑い声とも吐息ともつかないものだった。
俺を置いて? いなくなるな?
なに、言ってんだ、こいつ。
(いなくなるな、なんて、頷ける訳ない)
背中にまだ感じる視線。振り返ることは出来ない。
今、俺の中はぐちゃぐちゃだ。笑いたいのか、泣きたいのか、怒りたいのか、分からない。
(だって、置いていくのは、俺じゃなくて)
ただ分かっているのは、俺とこいつの中で何かが確実に変わってしまったこと。
そして、それを俺が望んでいなかったことだけだ。
(お前に決まってる)
センチメンタルというより乙女ティカルな銀さん。