ロマーノが独立をスペインの元に告げに来て以来、もともと多くはなかった二人が会う機会はほぼなくなった。ロマーノは国として忙しい身だったし、それを差し置いてスペインに会いに来る理由はなくなった。スペインとしても、自身の多忙さや彼の事情を無視してまでロマーノに会いに行ける理由はなくなってしまっていた。
それでも彼と会うことは全くの皆無というわけではなかったし、遠目にでも視線が合えば挨拶を交わした。時間に余裕があれば多少の立ち話もした。
彼はスペインと会うのを嫌がったりする様子はなかったし、避けたりする素振りもなかった。それでも、とスペインは思う。
ロマーノは、変わった。
最初は小さな違和感だった。それは少しずつ形を変えて大きくなり、いつしか確信となった。
今までの彼は、わがままで気まぐれで気分屋で、淋しがりのところも弱いところもあって、でも意地っ張りだからそれを表に出そうとはしなくて。でもそれらの感情全てが手に取るようにスペインには分かっていた。言葉なんかにされなくても、それ以上に雄弁な瞳で、表情で、それらを訴えていたからだ。
あの日以来、それら全てがなくなった。笑うことも怒ることもしなくなった。得意気な表情も、不満そうな表情も見せなくなった。
素っ気ないというのにも何処か違う。ただ淡々と挨拶や会話を交わして別れる。以前ならば反発や怒りを示していたような軽口にも、流すだけで特に反応を示したりしない。確かにロマーノなのに、彼ではないようだった。
多分、気を張っているからだろう。独立した国になったばかりだし、弟も守らねばと神経を張り詰めさせているだけだ。
きっと、色々と落ち着いたら元の感情豊かな彼に戻る。また自分に笑ったり怒ったりしてくれる。また、以前のように。
そうスペインは思っていた。だからロマーノの背を見送りながら胸が痛いくらいに軋んでも、呼び止めたりしなかった。子分の独り立ちが淋しいだなんて親分失格だ、そう自分に言い聞かせて笑顔を作っていた。
――――今、このときまでは。
ちょっとした用事があって訪れた悪友の住まい。今更遠慮などする仲でもないので、取り次ぎなどの面倒な手順を素っ飛ばすべく玄関でなく庭へと足を向けた。この時間帯ならば、きっとそこにいるだろうことは知っていた。
たどりついたそこには、目的の人物であるフランスの姿と、もう一人の姿があった。先客かと植え込みの陰から様子を窺おうとして、スペインは言葉を失った。
特に変わったものが見えた訳ではない。フランスと、ロマーノが話をしていただけだ。この二人の交流も長いものだし、ロマーノがここにいたって何もおかしいことはない。今までにも何度となく見たことのある光景だった。
ただ、今まで通り過ぎたのだ。何も、以前までと何も変わっていなかった。
フランスに相対するロマーノは、何も変わっていなかった。笑い、怒り、感情を露わにしていた。
(………なん、で)
頭の中が真っ白だった。その3文字しか浮かばなかった。
なんでロマーノは笑ってるんだ? 怒ってるんだ? そんな彼を、自分はもうずっと見ていないのに? なんでフランスの前でそんな表情をしている?
そんな思いばかりが渦巻き、頭に反比例するように、心の方は黒く染まっていく。
(なんでフランスなん? なんで、なんで)
それはもはや衝動だった。ただ身体が動いた。
足は勝手に植え込みの横を通り過ぎて二人に近付いていく。突然現れたスペインに二人は驚いているようだが、何を言っているかスペインの耳には届かない。口が動いているから言葉を発しているのだろうと感じただけだ。
(―――――なんで、俺じゃ駄目だったん?)
気が付けば、ロマーノの手を掴んで、元来た道を引き返していた。抵抗しようとする彼を力任せに引っ張っていく。
あの日と同じような、焼け付くような痛みが胸を抉る。苦しかった。許せなかった。この感情の名前も、その理由も、何も分からなかった。
ただ、ロマーノが自分以外の誰かにあんな表情を見せていたのが、嫌だった。
それでも彼と会うことは全くの皆無というわけではなかったし、遠目にでも視線が合えば挨拶を交わした。時間に余裕があれば多少の立ち話もした。
彼はスペインと会うのを嫌がったりする様子はなかったし、避けたりする素振りもなかった。それでも、とスペインは思う。
ロマーノは、変わった。
最初は小さな違和感だった。それは少しずつ形を変えて大きくなり、いつしか確信となった。
今までの彼は、わがままで気まぐれで気分屋で、淋しがりのところも弱いところもあって、でも意地っ張りだからそれを表に出そうとはしなくて。でもそれらの感情全てが手に取るようにスペインには分かっていた。言葉なんかにされなくても、それ以上に雄弁な瞳で、表情で、それらを訴えていたからだ。
あの日以来、それら全てがなくなった。笑うことも怒ることもしなくなった。得意気な表情も、不満そうな表情も見せなくなった。
素っ気ないというのにも何処か違う。ただ淡々と挨拶や会話を交わして別れる。以前ならば反発や怒りを示していたような軽口にも、流すだけで特に反応を示したりしない。確かにロマーノなのに、彼ではないようだった。
多分、気を張っているからだろう。独立した国になったばかりだし、弟も守らねばと神経を張り詰めさせているだけだ。
きっと、色々と落ち着いたら元の感情豊かな彼に戻る。また自分に笑ったり怒ったりしてくれる。また、以前のように。
そうスペインは思っていた。だからロマーノの背を見送りながら胸が痛いくらいに軋んでも、呼び止めたりしなかった。子分の独り立ちが淋しいだなんて親分失格だ、そう自分に言い聞かせて笑顔を作っていた。
――――今、このときまでは。
ちょっとした用事があって訪れた悪友の住まい。今更遠慮などする仲でもないので、取り次ぎなどの面倒な手順を素っ飛ばすべく玄関でなく庭へと足を向けた。この時間帯ならば、きっとそこにいるだろうことは知っていた。
たどりついたそこには、目的の人物であるフランスの姿と、もう一人の姿があった。先客かと植え込みの陰から様子を窺おうとして、スペインは言葉を失った。
特に変わったものが見えた訳ではない。フランスと、ロマーノが話をしていただけだ。この二人の交流も長いものだし、ロマーノがここにいたって何もおかしいことはない。今までにも何度となく見たことのある光景だった。
ただ、今まで通り過ぎたのだ。何も、以前までと何も変わっていなかった。
フランスに相対するロマーノは、何も変わっていなかった。笑い、怒り、感情を露わにしていた。
(………なん、で)
頭の中が真っ白だった。その3文字しか浮かばなかった。
なんでロマーノは笑ってるんだ? 怒ってるんだ? そんな彼を、自分はもうずっと見ていないのに? なんでフランスの前でそんな表情をしている?
そんな思いばかりが渦巻き、頭に反比例するように、心の方は黒く染まっていく。
(なんでフランスなん? なんで、なんで)
それはもはや衝動だった。ただ身体が動いた。
足は勝手に植え込みの横を通り過ぎて二人に近付いていく。突然現れたスペインに二人は驚いているようだが、何を言っているかスペインの耳には届かない。口が動いているから言葉を発しているのだろうと感じただけだ。
(―――――なんで、俺じゃ駄目だったん?)
気が付けば、ロマーノの手を掴んで、元来た道を引き返していた。抵抗しようとする彼を力任せに引っ張っていく。
あの日と同じような、焼け付くような痛みが胸を抉る。苦しかった。許せなかった。この感情の名前も、その理由も、何も分からなかった。
ただ、ロマーノが自分以外の誰かにあんな表情を見せていたのが、嫌だった。
2. 僕がきみの手を握ったのは、誰にも渡したくなかったからで、
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