それをしてみようと思ったことに、深い意味なんてない。ただ、そこに背中を向けてレイヴンが座っていた、それだけだ。だから、思うだけでなく実行に移したことについても、深い理由なんてなかった。ないはずだった。
せっかく今日の宿である一室で二人きりなのに、愛弓の手入れに夢中になっている相手に不満を抱いていたとか、………ましてや淋しかった、なんてことはない。決してそんなことはないんだ。ユーリはそう自分に言い聞かせる。そんな恥ずかしい理由で手を伸ばしたなんて認めたりしたら、羞恥で死んでしまえる。
そう、衝動なんて呼べるほど確かな激情ではないこれは、敢えて言うならば興味本位だ。いつもこれを自分にしかけてくるレイヴンがあまりに幸せそうにしているものだから、どんなものかと思っただけなのだ。
いつもならばユーリがこんな行動に出るまでもなく、構って欲しそうに接触してくるのはレイヴンの方だ。そっと触れてふにゃりと笑む。正直邪魔だと思うこともあるが、そんな表情をされては振り払うことも出来ず、されるがままになるのが常だった。なんだかんだ言っても、結局相手に溺れているのはユーリも同様なのだ。
いつものレイヴンの行動を真似て、そっとその背後に回る。そのまま後ろから覆いかぶさるようにして腕を回し、抱き付いた。自分より背は低い癖に、自分なんかよりよっぽど広くてがっしりした背に顔を寄せれば、布越しに慣れた体温と匂いが伝わってきて、心地好さに目を閉じる。
予想外のユーリの行動に驚いたのか、びくりとその肩が揺れるが、離れることはしない。一定のリズムで耳に届く音、胸に回した指先に触れる硬質な感触が愛しくて堪らない。それは彼が此処に生きている証だ。
(………安心、する)
あぁ、レイヴンがあんな表情をしていた理由が良く分かる。自分が感じる全てが誰より大切な人からだなんて、幸せ以外の何ものでもない。そうしているだけで、不安も悩みも融けていくような安堵感に包まれる。
どうしよう、幸せだ、この人が好きでどうしようもない。離れることなんて出来そうにない。どうしよう。どうしたらいいんだろう。こんなに好きになってしまうなんて。
戸惑うように名前を呼んでくる声がユーリの鼓膜を揺らす。きっとレイヴンは困ったように笑っているのだろう。でも離れられない。離れたく、ない。
そんなユーリの心情を察したのか、苦笑したような小さな吐息が零される。不意に、レイヴンの服を握りしめる手に何か温かいものが重ねられた。考えるまでもなく、それがレイヴンの手だと分かり、胸が締め付けられる。甘く優しく、痛みなんて欠片もない軋み。
(なんだこれ、なんで、なんで)
なんで、こんなにも泣き出したいような気持ちになるんだろう。ただ触れているだけなのに。それを、受け入れてもらえているだけなのに。なんで、こんなに。
いや、きっと、それすら全部レイヴンは受け止めて笑ってくれる。だから、いいんだろう。
涙の滲んだ目元を隠すように、強くその背に顔を埋める。応えるように呼ばれた自分の名前は、優しくあやすように静かな部屋に響いた。
せっかく今日の宿である一室で二人きりなのに、愛弓の手入れに夢中になっている相手に不満を抱いていたとか、………ましてや淋しかった、なんてことはない。決してそんなことはないんだ。ユーリはそう自分に言い聞かせる。そんな恥ずかしい理由で手を伸ばしたなんて認めたりしたら、羞恥で死んでしまえる。
そう、衝動なんて呼べるほど確かな激情ではないこれは、敢えて言うならば興味本位だ。いつもこれを自分にしかけてくるレイヴンがあまりに幸せそうにしているものだから、どんなものかと思っただけなのだ。
いつもならばユーリがこんな行動に出るまでもなく、構って欲しそうに接触してくるのはレイヴンの方だ。そっと触れてふにゃりと笑む。正直邪魔だと思うこともあるが、そんな表情をされては振り払うことも出来ず、されるがままになるのが常だった。なんだかんだ言っても、結局相手に溺れているのはユーリも同様なのだ。
いつものレイヴンの行動を真似て、そっとその背後に回る。そのまま後ろから覆いかぶさるようにして腕を回し、抱き付いた。自分より背は低い癖に、自分なんかよりよっぽど広くてがっしりした背に顔を寄せれば、布越しに慣れた体温と匂いが伝わってきて、心地好さに目を閉じる。
予想外のユーリの行動に驚いたのか、びくりとその肩が揺れるが、離れることはしない。一定のリズムで耳に届く音、胸に回した指先に触れる硬質な感触が愛しくて堪らない。それは彼が此処に生きている証だ。
(………安心、する)
あぁ、レイヴンがあんな表情をしていた理由が良く分かる。自分が感じる全てが誰より大切な人からだなんて、幸せ以外の何ものでもない。そうしているだけで、不安も悩みも融けていくような安堵感に包まれる。
どうしよう、幸せだ、この人が好きでどうしようもない。離れることなんて出来そうにない。どうしよう。どうしたらいいんだろう。こんなに好きになってしまうなんて。
戸惑うように名前を呼んでくる声がユーリの鼓膜を揺らす。きっとレイヴンは困ったように笑っているのだろう。でも離れられない。離れたく、ない。
そんなユーリの心情を察したのか、苦笑したような小さな吐息が零される。不意に、レイヴンの服を握りしめる手に何か温かいものが重ねられた。考えるまでもなく、それがレイヴンの手だと分かり、胸が締め付けられる。甘く優しく、痛みなんて欠片もない軋み。
(なんだこれ、なんで、なんで)
なんで、こんなにも泣き出したいような気持ちになるんだろう。ただ触れているだけなのに。それを、受け入れてもらえているだけなのに。なんで、こんなに。
いや、きっと、それすら全部レイヴンは受け止めて笑ってくれる。だから、いいんだろう。
涙の滲んだ目元を隠すように、強くその背に顔を埋める。応えるように呼ばれた自分の名前は、優しくあやすように静かな部屋に響いた。
幸せなときも泣きたくなるなんて、きみに出会うまで知らなかったんだ
(それすら幸せ、なんて)
レイユリはどんな経緯を辿ろうと、最終的には甘く幸せであって欲しいという願望。
title by 確かに恋だった