甲板に立って、空を見上げる。
 晴れ渡って、澄み切った空。空の色も、波打つ海も、身体で受ける風だって、今までと何ひとつ変わらない。何も変わっていない。なのに。


「あんまり風に当たってると風邪ひくぞ、ルーク」


 そう言って、歩み寄ってくる彼の笑顔だって、何処も変わらないのに。

 ――――― 何で、こんなにも変わってしまったのだろう。



 セントビナーの崩落が迫っている。崩れ始めた市街にはまだ住民が残っていて、彼らを救うためタルタロスは全速力でシェリダンへと向かっている最中だ。
 もともと軍用艦であるタルタロスの速度は相当なもので、甲板に吹き付ける風も、かなりの強さだ。風邪をひく、と注意されるほど長くここにいたつもりはなかったが、その強風の所為だろう。指摘されて自身の腕に触れると、確かに冷えていた。
 かといって、艦内に戻る気にはなれなかった。そもそも一人で考えたくてここにいたのだ。だから、近づいてくるガイに答えることなく縁に凭れかかり、視線を海へと落とす。
 そんな態度をとったというのに、ガイは小さな苦笑一つで済ませてしまう。今までなら、それを当たり前だと思っていた。ガイは使用人で、自分は彼の主人だったから。ガイが俺の我が儘に付き合うのは当然で、それに彼が文句をつけるなんて有り得ないことだった。

 でも、本当は彼は貴族で。自分を殺すために使用人として近付いただけで。それが露呈した今となっては、こんな風に俺に付き合う義理なんてないんだ。好きにしろ、と呆れて放っておいて良いんだ。


 なのに、ガイはそうしない。


 今までと何も変わらない。俺のことを気にかけて、心配して、盾になろうとする。
 何でだ、と問いかけようとして、いつも口篭る。訊いて、もし、もしも、止めてしまったら。もうしない、と言われてしまったら。

 いなくなって、しまったら。

 本当は、もう良いよ、って言わなきゃいけないんだ。ガイが言うとおり、復讐心がもうないというなら、自由になっていい筈なのに。俺に構わなくて良いよ、って言わなきゃいけないのに。
 ガイが、そばからいなくなるのが怖いんだ。


 びゅう、と一際強い風が吹いて、短くなった髪を掻き乱す。乱れた髪の隙間から彼の笑顔が見えて、いなくなるな、と泣いて縋りたくなる。
 そんなことが許されないことは知ってる。だから、傍にずっといて欲しいなんて望まない。嫌いでもいい、憎んでてもいいから。ただ。


「ほら、もう中に入るぞ。体調崩したりしたら洒落にならないからな」


 そういって、差し出してくれる手を。
 触れたその温かさを。


「やっぱり冷えてるな。ったく」


 俺から、奪わないで。

 いつか、もう良いよ、と言えるその日まで。
 今だけ、もう少し、――――― あと少しだけ。


1. 決して他は望まないから
何だかガイルクはカプっぽくなりません・・・・。すれ違いラブ万歳。


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