元々、一人で空を見上げるのは好きだった。
 両手から零れ落ちないように必死に抱えているものを、私が持ちやすいように軽くしてくれる気がしたから。

 でも、いつからか空を見上げる回数が増えたのは。
 見上げる時間が長くなったのは。

 あの日、音素となって消えてしまったあの人を探しているのかもしれない。



「……アニス」


 躊躇いがちにかけられた声に、視線を下げる。視界に映るのは、空の青から一転して燃えるような緋色。
 困ったような笑顔のルークが立っていた。


 困ったような笑顔。あの人が私によく見せてくれた表情。
 私が無茶をする度にその表情を浮かべて、優しく諫めてくれた。困らせたかった訳ではないけれど、それは私の、好きな表情だった。優しいあの人が、私を心配して想ってくれているときの表情だったから。
 きっと、ルークもそうだったのだろう。最初こそあんな態度だったけれど、きっとルークはずっとあの人のことを嫌いではなかったと思う。
 それに、ルークは他の誰よりあの人に近い存在。あの人を支えにしていたところもあっただろうから。

 だから、きっとルークもあのとき、あの人が消えてしまったあのときに、大きな傷を負ったに違いないのに。私を責めなかった。そのときも、その後も。
 不安だっただろうに、泣きたかっただろうに、詰りたかっただろうに。なのに、私のことを想って責めなかった。
 私にはそうやって優しくされる資格なんてないのに。こうやって心配してもらう資格なんてないのに。それでも心配してくれる優しさが、今はいないあの人を思わせて、その緑の瞳を直視することが出来ず視線を逸らした。

 そんな私に何を思ったのか、ルークは逡巡するように視線を巡らせて。
 真っ直ぐ私を見て、口を開いた。


「俺、今、凄く幸せなんだ」


 その言葉の真意が読み取れないので返答できずにいたら、慌てたようにルークが言葉を続けた。

「俺、好きな人が、大切な人が沢山出来たんだ。その中でも特別好きで大切な人も出来た。その人達が、俺に笑ってくれるんだ。俺を好きでいてくれるんだ。これ以上の幸せなんかないよ」

 そこまで一息に言って。
 一呼吸おいて、だから、と。


「……イオンも、幸せだったよ」


 アニスに会えて、一緒に居られて。

 そう足されて、言葉を失う。
 あの人が幸せだった、私といれて幸せだったとルークは言う。あの人は確かにいつも笑ってくれていたけれど、楽しいと言ってくれていたけれど。それは、あの人が知らなかったからだ。この世界にもっともっと多くの楽しいことがあることを。幸せがあることを。そして、それを知るための時間を奪ってしまったのは私なのだ。
 でも、そんな私の戸惑いもお見通し、という風にルークは笑う。そしてもう一度告げる。イオンはアニスのおかげで幸せだったよ、と。

 耐えられなくなって俯く。
 私の犯した罪を思えば、その言葉を素直に受け取ることなんて出来ない。私があの人に幸せをあげれたなんて、思い上がりも良いところだ。

 それでも。
 もし、もしもルークの言うように、私が少しでもあの人を幸せにしてあげられていたのだというのなら。


(……イオン、さま)


 貴方だけを選べず、一番にも選べず、罪を犯してしまった私にそんな資格がないのはわかっているけれど。
 それでも、それでも。


(私は、確かに貴方が大切でした)


 この想いを、捨てなくてもいいでしょうか。


6. ONE
Only oneとしてもNo.1としても選べなかったけれど、それでも大切な人の一人だった。
アニスがとんだ偽物ですすみません。


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