気付きにくくなっていただけで、見えにくくなっていただけで。
本当はきっと、何も変わっていなかったんだ。
静まり返った部屋の中に、紙を繰る音だけが響く。そのあまりの静寂に溜息を零すことすら憚られて、膝の上に乗せた雑誌を捲っていた手を止めた虎徹は胸の内だけで大きく息を吐いた。
もうだいぶ前から内容なんて頭に入ってきてはいない。文字を視線で追っているだけで、そこから得られている筈の情報も脳を素通りする一方だ。他にやる事がないから、何となくページを捲り続けていただけだ。
ちらりと横目で視線を流せば、そこには一人掛けのソファに腰掛けたバーナビーが目に入る。虎徹には理解出来ない小難しい本に視線を落とした彼は、もう2時間も前からそのままだ。この部屋を訪ねたとき既に読書中だったバーナビーに、構わなくていいからと言って上がり込んだのは虎徹だ。だからこの状況に文句など言える筈もないのだが、それでも何かもやもやとしたものが胸の中で溜まっていくのを止めることは出来なかった。
(……最近、こんなんばっかだなぁ)
なんだか、会話が減った気がする。端正な横顔を眺めながら、ぼんやりとそんなことを思う。仕事中やヒーローとしての出動中はそんなことは思わない。むしろ二人の息はますます合ってきているように感じている。だが、逆にプライベートでの、恋人としての二人は最近噛み合っていない気がしているのだ。例えば、ふと向けた視線が合わなくなったこととか。喧嘩にまで発展しないような、些細なズレが多くなったこととか。一つ一つは小さなものだが、降り積もればその嵩は大きくなる。今のように、二人きりの空間に居心地悪さを感じてしまうこともしばしばだ。一緒に過ごすことを苦痛に思う訳ではない。それでも、一緒にいる理由を見失っているのは確かだった。
テレビでもつけられれば退屈を紛らわせることも出来るのに、相手に気付かれない程度に凝り固まった身体を伸ばしながら考えるのはそんなことばかりだ。自分が暇だからって、バーナビーの邪魔はしない。それくらいは弁えているつもりだ。
(……いつから俺、こんな気の使い方し始めたんだっけ。前、前はなんか、もっと、こう)
二人がこういう関係になる前は、もっと自分は気楽にバーナビーと時間を過ごせていた筈だ。自然体で、お互い思ったことをぶつけ合えていた。今の方が余程、二人の距離が開いてしまっているかのようだ。いや、実は距離が遠くなったのか近くなったのか、それすらも分かっていないのかもしれない。
(……どのくらいの距離を取るべきか、……分からない、のか)
不意に、虎徹の沈んだ思考を遮るように電子音が響く。一瞬出動かと身構えるが、音の発信源が自身の携帯電話であることに気付き、慌ててボタンを押して音を止める。無音を破ってしまったことに理由の分からない罪悪感を覚えながら手の中の機械を操作すると、それは1通のメールを受信したことを伝える。アントニオからの、久しぶりに飲まないかとの誘いだ。思い起こしてみると、付き合い始めてからはずっとこの恋人に付きっきりだったこともあって、確かにしばらく彼と飲みに行っていなかった。こうやってぐだぐだと悩んでいるくらいなら、気分転換した方が良いかもしれない。
そう思い立ち、広げたままだった雑誌を閉じて腰を上げると、こちらに視線を向けているバーナビーと目が合った。さすがにあれだけの音が響いたのだから、集中も途切れてしまったのだろう。こちらを窺っていた相手が口を開くよりも早く、虎徹はへらりとした笑みを向ける。
「悪ィな、バニーちゃん。俺、用事出来たから帰るな」
そのままくるりと背を向けて玄関へと足を進める。一度だけ名を呼ばれた気がしたが、追い掛けてくる気配もなかったので空耳だろう。そう一人納得して、逃げるように扉を閉める。何から逃げているのかは、自分でも分からなかった。
薄暗く設定された照明の下で手にしたグラスを揺らせば、氷とガラスが涼やかな音を立てる。それに気を良くして目を細めて中身を飲み干すと、隣から溜息が零された。
久しぶりのために飲むペースを失敗したのか、既にアルコールで重くなってきた瞼をこじ開けながら視線を寄こせば、そこには見慣れた呆れ顔がある。
「いい加減止めた方が良いんじゃないのか、虎徹。帰れなくなっても、俺は知らないからな」
「んだよー、誘ったのはそっちじゃんか」
拙い反論に返ってきた、潰れるまで飲もうなんて言った覚えはないぞ、とつれない言葉に唇を尖らせれば、もう一つ溜息が漏らされる。こんなお前に付き合えるあいつは凄いな、なんて彼より遥かに自身と付き合いの長い男に揶揄するように言われ、虎徹は眉を顰めた。
バーナビーは自分なんかよりよっぽど面倒だと、そう虎徹は思う。クールにそつなく愛敬を振り撒く彼はあくまで対外用で、本当のバーナビーは小言が多いし、ああ見えて我儘だ。独占欲の強さは他に類を見ないほど。当然嫉妬心も強くて、些細なことで臍を曲げては虎徹に無体を強いてくる。
だが、虎徹にはそれが嫌ではなかった。自分しか知らない素の彼を見せてくれているようで、嬉しかった。共に過ごす時間が長くなって、小言は虎徹を心配するが故のもので、異常なまでの独占欲だって彼が今まで抱えてきた孤独や弱さを自分に見せてくれている証なのだと分かった。そうと分かってしまえば溢れてくるのは愛しさばかりで、自分の年齢を考えれば少しは遠慮して欲しいと思う熱情でさえ、甘やかな諦めと共に受け入れられた。
そうだ、彼は、バーナビーは心から虎徹を大事にしていた。不器用ながらも、他の何ものにも壊されないように、奪われないようにと守っていた。本当は虎徹にだって分かっていたのだ。バーナビーは虎徹が呼びかければ、いつだってその本を閉じて自分を見てくれることを。虎徹が望めば、その笑顔だって温もりだって惜し気もなく与えてくれることを。それを年上のプライドだとかつまらない意地で遠ざけていたのは、他でもない虎徹自身だということを。
いつの間にか注ぎ足されていた酒に浮く氷を指で突くと、からりと音が鳴った。そういえば、この仕種もバーナビーに叱られたことがあったなと思い返す。行儀が悪いと怒った彼は、今隣にいない。
不意に、空耳だと思い込んだ筈の、自分の名を呼ぶバーナビーの声が甦る。振り切るようにして出てきてしまったが、彼は今どうしているのだろうか。誰よりも淋しがりの彼は、今も一人であの部屋にいるのだろうか。帰ると言った自分をただ見送ったバーナビーは、どんな表情をしていたのだろうか。
「……俺、帰るな!」
そう言い残して席を立つ。ドアを開く瞬間に視線だけで振り返れば、アントニオもこちらを振り返らないまま手を緩く振った。全部お見通しといった態度に、付き合い長い奴ってのはこれだから、そう心の中で気恥ずかしさを感じながら悪態をついて駆けだす。どうしても今、バーナビーに会いたかった。
しかし、そのまま走りだそうとした虎徹の足は、ドアから飛び出して数歩も行かないうちに止まった。店の前の路地、人通りの少ないそこに、見慣れた車と人物を見つけてしまったからだ。
「……バ、ニー……」
ゆったりと足を組んで軽く車に寄りかかって立つその顔は、一切の感情を排除したような無表情で、その後に続く言葉を虎徹は見つけられずに黙る。そもそも店を飛び出したのだって勢いで、何を告げるかなんてこれから考えるつもりだった。そこに不意打ちのようにバーナビーが現れたのだから、余計に混乱して頭が回るはずもない。
そんな虎徹を同じように無言で見つめていたバーナビーが、不意に小さく溜息を零す。その意味が分からず、虎徹はびくりと身体を震わせた。感情の窺えない平坦な声で車に乗るよう促されれば、ただ黙って従うしか出来なかった。
相変わらず丁寧な運転の車は、二人を乗せて夜の街を駆ける。だが、乗り込んでからもバーナビーは口を噤んだままで、車内に響くのはエンジン音ばかりだ。そんな彼にどうしたらいいのか分からない虎徹は、運転席側に視線を向けることすら出来ずにただ俯く。バーナビーは何故あそこにいたのだろうか。何故今自分を乗せているのだろうか。この車を、そして二人の関係を何処へ連れていく気なのだろう。
嫌でも視界に入り込んでくる街灯の光にゆっくりと顔を上げれば、遠くに分かれ道が見えた。左に進めばバーナビーの家に、右に進めば虎徹の家と辿り着く。まだ距離があるため、バーナビーはどちらの方向にもウィンカーを出していない。もし、点滅するそれが右側だったら。週末はバーナビーの家で共に過ごすことを当然としていた二人にとって、それは終わりの合図になりはしないだろうか。もし右だったら、自分はどうするだろう、どうしたいだろう。虎徹自身が蒔いた種だということは痛いくらいに理解している。でも、それでも。傍にいたいのだと、そう言ったら彼はどうするだろうか。
まるで死刑宣告を待つかのような気分でじっと息を詰めていた虎徹の耳に、小さく自分の名を呼ぶ声が届く。それを誰が発したかなんて、二人だけの狭い車内では考えるまでもなくて、弾かれたように隣の席へ目を向けた。
「――――気は、済みましたか」
突き放すような言葉と、いつも通りの声。だが、真っ直ぐに前へと向けられた翡翠の瞳は隠しきれない不安に揺れていた。それがどうしようもなく愛しくて、滲みそうになった涙を隠す様にハンチング帽を目深に被り直す。
「……あぁ。ごめん、バニーちゃん。来てくれて、ありがと、な」
返した声は震えていなかっただろうか。震えていても、涙声になっていたとしても、本当は構わないのだけど。バーナビーが吐き出した息は、紛れもなく安堵の色を含ませていて、それは何より彼がまだ虎徹と一緒にいたいと思ってくれている証拠なのだから。
近付く分かれ道に、カチカチと無機質な音が響く。左側が点滅するそれを見て、虎徹は上質なシートに深く身体を埋めた。
(君を想う気持ちは変わらず此処にあるから、理由なんてそれで充分なんだ)
本当はきっと、何も変わっていなかったんだ。
恋愛継続条件
ぱらり、ぺらり。静まり返った部屋の中に、紙を繰る音だけが響く。そのあまりの静寂に溜息を零すことすら憚られて、膝の上に乗せた雑誌を捲っていた手を止めた虎徹は胸の内だけで大きく息を吐いた。
もうだいぶ前から内容なんて頭に入ってきてはいない。文字を視線で追っているだけで、そこから得られている筈の情報も脳を素通りする一方だ。他にやる事がないから、何となくページを捲り続けていただけだ。
ちらりと横目で視線を流せば、そこには一人掛けのソファに腰掛けたバーナビーが目に入る。虎徹には理解出来ない小難しい本に視線を落とした彼は、もう2時間も前からそのままだ。この部屋を訪ねたとき既に読書中だったバーナビーに、構わなくていいからと言って上がり込んだのは虎徹だ。だからこの状況に文句など言える筈もないのだが、それでも何かもやもやとしたものが胸の中で溜まっていくのを止めることは出来なかった。
(……最近、こんなんばっかだなぁ)
なんだか、会話が減った気がする。端正な横顔を眺めながら、ぼんやりとそんなことを思う。仕事中やヒーローとしての出動中はそんなことは思わない。むしろ二人の息はますます合ってきているように感じている。だが、逆にプライベートでの、恋人としての二人は最近噛み合っていない気がしているのだ。例えば、ふと向けた視線が合わなくなったこととか。喧嘩にまで発展しないような、些細なズレが多くなったこととか。一つ一つは小さなものだが、降り積もればその嵩は大きくなる。今のように、二人きりの空間に居心地悪さを感じてしまうこともしばしばだ。一緒に過ごすことを苦痛に思う訳ではない。それでも、一緒にいる理由を見失っているのは確かだった。
テレビでもつけられれば退屈を紛らわせることも出来るのに、相手に気付かれない程度に凝り固まった身体を伸ばしながら考えるのはそんなことばかりだ。自分が暇だからって、バーナビーの邪魔はしない。それくらいは弁えているつもりだ。
(……いつから俺、こんな気の使い方し始めたんだっけ。前、前はなんか、もっと、こう)
二人がこういう関係になる前は、もっと自分は気楽にバーナビーと時間を過ごせていた筈だ。自然体で、お互い思ったことをぶつけ合えていた。今の方が余程、二人の距離が開いてしまっているかのようだ。いや、実は距離が遠くなったのか近くなったのか、それすらも分かっていないのかもしれない。
(……どのくらいの距離を取るべきか、……分からない、のか)
不意に、虎徹の沈んだ思考を遮るように電子音が響く。一瞬出動かと身構えるが、音の発信源が自身の携帯電話であることに気付き、慌ててボタンを押して音を止める。無音を破ってしまったことに理由の分からない罪悪感を覚えながら手の中の機械を操作すると、それは1通のメールを受信したことを伝える。アントニオからの、久しぶりに飲まないかとの誘いだ。思い起こしてみると、付き合い始めてからはずっとこの恋人に付きっきりだったこともあって、確かにしばらく彼と飲みに行っていなかった。こうやってぐだぐだと悩んでいるくらいなら、気分転換した方が良いかもしれない。
そう思い立ち、広げたままだった雑誌を閉じて腰を上げると、こちらに視線を向けているバーナビーと目が合った。さすがにあれだけの音が響いたのだから、集中も途切れてしまったのだろう。こちらを窺っていた相手が口を開くよりも早く、虎徹はへらりとした笑みを向ける。
「悪ィな、バニーちゃん。俺、用事出来たから帰るな」
そのままくるりと背を向けて玄関へと足を進める。一度だけ名を呼ばれた気がしたが、追い掛けてくる気配もなかったので空耳だろう。そう一人納得して、逃げるように扉を閉める。何から逃げているのかは、自分でも分からなかった。
薄暗く設定された照明の下で手にしたグラスを揺らせば、氷とガラスが涼やかな音を立てる。それに気を良くして目を細めて中身を飲み干すと、隣から溜息が零された。
久しぶりのために飲むペースを失敗したのか、既にアルコールで重くなってきた瞼をこじ開けながら視線を寄こせば、そこには見慣れた呆れ顔がある。
「いい加減止めた方が良いんじゃないのか、虎徹。帰れなくなっても、俺は知らないからな」
「んだよー、誘ったのはそっちじゃんか」
拙い反論に返ってきた、潰れるまで飲もうなんて言った覚えはないぞ、とつれない言葉に唇を尖らせれば、もう一つ溜息が漏らされる。こんなお前に付き合えるあいつは凄いな、なんて彼より遥かに自身と付き合いの長い男に揶揄するように言われ、虎徹は眉を顰めた。
バーナビーは自分なんかよりよっぽど面倒だと、そう虎徹は思う。クールにそつなく愛敬を振り撒く彼はあくまで対外用で、本当のバーナビーは小言が多いし、ああ見えて我儘だ。独占欲の強さは他に類を見ないほど。当然嫉妬心も強くて、些細なことで臍を曲げては虎徹に無体を強いてくる。
だが、虎徹にはそれが嫌ではなかった。自分しか知らない素の彼を見せてくれているようで、嬉しかった。共に過ごす時間が長くなって、小言は虎徹を心配するが故のもので、異常なまでの独占欲だって彼が今まで抱えてきた孤独や弱さを自分に見せてくれている証なのだと分かった。そうと分かってしまえば溢れてくるのは愛しさばかりで、自分の年齢を考えれば少しは遠慮して欲しいと思う熱情でさえ、甘やかな諦めと共に受け入れられた。
そうだ、彼は、バーナビーは心から虎徹を大事にしていた。不器用ながらも、他の何ものにも壊されないように、奪われないようにと守っていた。本当は虎徹にだって分かっていたのだ。バーナビーは虎徹が呼びかければ、いつだってその本を閉じて自分を見てくれることを。虎徹が望めば、その笑顔だって温もりだって惜し気もなく与えてくれることを。それを年上のプライドだとかつまらない意地で遠ざけていたのは、他でもない虎徹自身だということを。
いつの間にか注ぎ足されていた酒に浮く氷を指で突くと、からりと音が鳴った。そういえば、この仕種もバーナビーに叱られたことがあったなと思い返す。行儀が悪いと怒った彼は、今隣にいない。
不意に、空耳だと思い込んだ筈の、自分の名を呼ぶバーナビーの声が甦る。振り切るようにして出てきてしまったが、彼は今どうしているのだろうか。誰よりも淋しがりの彼は、今も一人であの部屋にいるのだろうか。帰ると言った自分をただ見送ったバーナビーは、どんな表情をしていたのだろうか。
「……俺、帰るな!」
そう言い残して席を立つ。ドアを開く瞬間に視線だけで振り返れば、アントニオもこちらを振り返らないまま手を緩く振った。全部お見通しといった態度に、付き合い長い奴ってのはこれだから、そう心の中で気恥ずかしさを感じながら悪態をついて駆けだす。どうしても今、バーナビーに会いたかった。
しかし、そのまま走りだそうとした虎徹の足は、ドアから飛び出して数歩も行かないうちに止まった。店の前の路地、人通りの少ないそこに、見慣れた車と人物を見つけてしまったからだ。
「……バ、ニー……」
ゆったりと足を組んで軽く車に寄りかかって立つその顔は、一切の感情を排除したような無表情で、その後に続く言葉を虎徹は見つけられずに黙る。そもそも店を飛び出したのだって勢いで、何を告げるかなんてこれから考えるつもりだった。そこに不意打ちのようにバーナビーが現れたのだから、余計に混乱して頭が回るはずもない。
そんな虎徹を同じように無言で見つめていたバーナビーが、不意に小さく溜息を零す。その意味が分からず、虎徹はびくりと身体を震わせた。感情の窺えない平坦な声で車に乗るよう促されれば、ただ黙って従うしか出来なかった。
相変わらず丁寧な運転の車は、二人を乗せて夜の街を駆ける。だが、乗り込んでからもバーナビーは口を噤んだままで、車内に響くのはエンジン音ばかりだ。そんな彼にどうしたらいいのか分からない虎徹は、運転席側に視線を向けることすら出来ずにただ俯く。バーナビーは何故あそこにいたのだろうか。何故今自分を乗せているのだろうか。この車を、そして二人の関係を何処へ連れていく気なのだろう。
嫌でも視界に入り込んでくる街灯の光にゆっくりと顔を上げれば、遠くに分かれ道が見えた。左に進めばバーナビーの家に、右に進めば虎徹の家と辿り着く。まだ距離があるため、バーナビーはどちらの方向にもウィンカーを出していない。もし、点滅するそれが右側だったら。週末はバーナビーの家で共に過ごすことを当然としていた二人にとって、それは終わりの合図になりはしないだろうか。もし右だったら、自分はどうするだろう、どうしたいだろう。虎徹自身が蒔いた種だということは痛いくらいに理解している。でも、それでも。傍にいたいのだと、そう言ったら彼はどうするだろうか。
まるで死刑宣告を待つかのような気分でじっと息を詰めていた虎徹の耳に、小さく自分の名を呼ぶ声が届く。それを誰が発したかなんて、二人だけの狭い車内では考えるまでもなくて、弾かれたように隣の席へ目を向けた。
「――――気は、済みましたか」
突き放すような言葉と、いつも通りの声。だが、真っ直ぐに前へと向けられた翡翠の瞳は隠しきれない不安に揺れていた。それがどうしようもなく愛しくて、滲みそうになった涙を隠す様にハンチング帽を目深に被り直す。
「……あぁ。ごめん、バニーちゃん。来てくれて、ありがと、な」
返した声は震えていなかっただろうか。震えていても、涙声になっていたとしても、本当は構わないのだけど。バーナビーが吐き出した息は、紛れもなく安堵の色を含ませていて、それは何より彼がまだ虎徹と一緒にいたいと思ってくれている証拠なのだから。
近付く分かれ道に、カチカチと無機質な音が響く。左側が点滅するそれを見て、虎徹は上質なシートに深く身体を埋めた。
(君を想う気持ちは変わらず此処にあるから、理由なんてそれで充分なんだ)
ハルカさんとした兎虎一択お題アミダより、「虎徹さん倦怠期中」でした。
倦怠期について本気だして考えてみたら、やたら草食系なバニーさんに。いや、本当は本読んでる振りをしているだけで内容なんて分からないくらい虎徹さんに意識向けてても良いと思うよ!
ていうか何で本当にバニーさんそんなところで待ち構えてたんだ。バイソン先輩から何処にいるか聞き出したのか。
何だかぐだぐだ長くなったので改善しようとしたら、後半が急展開……すみませ……!
倦怠期について本気だして考えてみたら、やたら草食系なバニーさんに。いや、本当は本読んでる振りをしているだけで内容なんて分からないくらい虎徹さんに意識向けてても良いと思うよ!
ていうか何で本当にバニーさんそんなところで待ち構えてたんだ。バイソン先輩から何処にいるか聞き出したのか。
何だかぐだぐだ長くなったので改善しようとしたら、後半が急展開……すみませ……!