*直接のモブ虎描写はなくただの兎虎ですが、虎徹さんが枕営業している人ですすみません。
君を傷付けたくないとか悲しませたくないとか。そんなのは全部、口先だけの綺麗事で、ただの建前でしかないんだ。
ほんとうのほんとうは、ただ、怖いだけなんだ。
虎徹の記憶では、自身がいたのはリビングのソファの上だった筈だ。しかしどうやら、虎徹はバーナビーの帰りを待っている内に寝入ってしまったらしい。それを帰宅したバーナビーが見つけて、ベッドに運んでくれたのだろう。そしてそのまま抱き枕よろしく眠りについた。そんなところか。
用意しておいた二人分の夕飯はどうしただろうか。きっとバーナビーは一人で食べることはしないだろうし、食べれるような時間の帰宅ではなかっただろう。ラップはかけておいたが、冷蔵庫に入れてくれただろうか。
ぼんやりとした頭でそんなことを考えている内に、段々と眠気も薄れてくる。闇に慣れてきた目は、能力を使うまでもなく視界をクリアにしていた。
視線を自分の少し頭上へと向ければ、自分を抱き込むようにして眠っているバーナビーの顔が目に入る。規則正しく寝息を吐き出す彼は、ぐっすりと眠り込んでいて起きる気配はない。きっと疲れているのだろう。バーナビーは虎徹の何倍もの取材を受けている上、書類仕事でも虎徹が処理しきれない分を引き受けてくれている。いくら若くて体力があるとはいえ、疲れない筈がない。
それでも。
それでも、と虎徹は思う。それでも、神経質で気配に敏感なバーナビーがこんなにも安心しきって眠っているのは、自分がここにいるからなのだと。どんなに疲れていたとしても周囲から求められる自分を演じようとする彼が、こんなにも無防備な姿を見せるのは自分の前だけ。誰もが知る有名人であるバーナビーだが、こんな彼を知っているのは、彼の両親が他界している今、世界で自分一人だ。
自惚れではなく、確信としてその想いは虎徹の中にある。それほどバーナビーにとって虎徹は特別なのだ。それこそ、否定する余地もない程に。バーナビーが虎徹を唯一の人としていることは、誰よりも虎徹自身が知っていた。
だが、だからこそ虎徹が不安になっていることを、バーナビーは知らない。
身動きできないまま、じっと視線だけをバーナビーの顔へと向ける。あれだけの過去を持ちながらも、彼は綺麗なままだった。大人たちの狡さや汚さを全く知らない訳ではないだろうに、彼自身は何処も汚れてはいない。
なぁ、バニー。声には出さないまま、眠っている彼に呼びかける。
お前は俺がいてくれたおかげでここまでこれたとか、俺がお前を救ったとか言うけどさ。本当は逆なんだ。俺がお前に救われていたんだ。お前がいたから、まだヒーローでいようと思えたんだ。―――自分が、どれだけ汚れていたとしても。
起きている彼には決して告げることのできない言葉を胸の内に溜め込んだまま、自嘲の笑みだけを零す。それこそ今更だ。選ばざるを得なかったとはいえ、自分で選んだ道なのだ。
あまりそういった経験がないとバーナビーは言っていたが、何回か肌を重ねたのだ。彼も口には出さないが、虎徹が男を相手にした経験があることは気付いているだろう。だが、さすがにその相手が不特定多数であるとは夢にも思っていないに違いない。
所謂、枕営業。最近ではブルーローズのようにアイドルとしてヒーローを売り出すことも増えた分、スキャンダルにしかならないようなこんな接待は廃れている。それでも長くヒーロー業を続けていれば、そんな慣習に巻き込まれることもある。ましてや、虎徹の以前所属していた会社は経営が芳しくなく、そこに更に虎徹が賠償金を上乗せしていたのだ。悪習だろうとなんだろうと、稼ぎになるのならばと駆り出されることになっても、虎徹に拒否権はなかった。
アポロンメディアに移籍してからは、さすがに大企業であるからかそんな話は一切振られることはなかった。もちろんバーナビーとのコンビとしてのイメージだとかの戦略もあったのだろうし、何よりバーナビーとコンビを組んだことで虎徹自身が賠償金を増やさなくなったからでもあっただろう。
だから、もしかしたら、もう止められるのかもしれないと思ったこともあった。だが、それは甘い考えだったとすぐに打ち壊された。淡い期待を抱いていた虎徹に、一番の"お得意様"である男は、まだ私が肩代わりした賠償金は残っているよ、と告げた。曰く、虎徹が枕営業で稼いでいた分の金銭は、当然表に出せるものではない。だから移籍時にも隠されたままで、アポロンメディアに引き継がれなかった賠償金が存在するのだと。男の言葉が真実かどうかを確かめる術はなく、断ればベンなどかつてのスタッフに迷惑をかける可能性がある。そんな中で、虎徹が選べた道は一つだった。
知らず詰めていた息を吐き出す。あぁ、感傷的になり過ぎた。そんなの、全部承知していた筈だ。何を、今更。
バーナビーの告白を受け入れたとき、もうそのときから彼を裏切り続けることになるのは分かっていた。それと分かっていながら受け入れたのは自分だ。ぶつけられた想いを喜んで、酷いことをすると思いながらも手放すという選択肢を捨てたのは、虎徹自身だ。
だから、今更、辛いなんて言うのはお門違いだ。こんなにも汚れた自分を知られてしまって軽蔑されたら、なんて恐怖感を抱くこと自体が間違いだ。被害者はバーナビーで、虎徹は加害者だ。今、バーナビーが虎徹を愛していると言えるのは虎徹のことを知らないからであって、いつかすべてを知った彼が正当な評価を虎徹に下したとしても、虎徹はそれを黙って受け入れる義務がある。
知らず零れそうになっていた嗚咽をどうにか飲み込んで、潤んでいた視界に映るバーナビーをただ見つめ続ける。いつか彼がこの時間を後悔する日が来ても、虎徹は忘れずにいられるように。
つらい、やめたい。音に出せないそれらの言葉達の代わりに、一粒の涙が少し乱れたベッドシーツを濡らした。
(すべてを知ったとき、きっとお前は、俺のことを)
君を傷付けたくないとか悲しませたくないとか。そんなのは全部、口先だけの綺麗事で、ただの建前でしかないんだ。
ほんとうのほんとうは、ただ、怖いだけなんだ。
そんな僕を君は
ふと温かいものに包まれていることに気付いて、虎徹は眠気で重い瞼を開いた。開けた視界に最初に飛び込んできたのは、見覚えのある滑らかな肌、そして金糸のような髪。身動ぎしようとした身体を戒めているのは、彼―――バーナビーの腕だ。身体を動かせないため、ぐるりと視線だけを動かして周囲を見渡せば、今いる場所がバーナビーの寝室のベッドであることに気付く。虎徹の記憶では、自身がいたのはリビングのソファの上だった筈だ。しかしどうやら、虎徹はバーナビーの帰りを待っている内に寝入ってしまったらしい。それを帰宅したバーナビーが見つけて、ベッドに運んでくれたのだろう。そしてそのまま抱き枕よろしく眠りについた。そんなところか。
用意しておいた二人分の夕飯はどうしただろうか。きっとバーナビーは一人で食べることはしないだろうし、食べれるような時間の帰宅ではなかっただろう。ラップはかけておいたが、冷蔵庫に入れてくれただろうか。
ぼんやりとした頭でそんなことを考えている内に、段々と眠気も薄れてくる。闇に慣れてきた目は、能力を使うまでもなく視界をクリアにしていた。
視線を自分の少し頭上へと向ければ、自分を抱き込むようにして眠っているバーナビーの顔が目に入る。規則正しく寝息を吐き出す彼は、ぐっすりと眠り込んでいて起きる気配はない。きっと疲れているのだろう。バーナビーは虎徹の何倍もの取材を受けている上、書類仕事でも虎徹が処理しきれない分を引き受けてくれている。いくら若くて体力があるとはいえ、疲れない筈がない。
それでも。
それでも、と虎徹は思う。それでも、神経質で気配に敏感なバーナビーがこんなにも安心しきって眠っているのは、自分がここにいるからなのだと。どんなに疲れていたとしても周囲から求められる自分を演じようとする彼が、こんなにも無防備な姿を見せるのは自分の前だけ。誰もが知る有名人であるバーナビーだが、こんな彼を知っているのは、彼の両親が他界している今、世界で自分一人だ。
自惚れではなく、確信としてその想いは虎徹の中にある。それほどバーナビーにとって虎徹は特別なのだ。それこそ、否定する余地もない程に。バーナビーが虎徹を唯一の人としていることは、誰よりも虎徹自身が知っていた。
だが、だからこそ虎徹が不安になっていることを、バーナビーは知らない。
身動きできないまま、じっと視線だけをバーナビーの顔へと向ける。あれだけの過去を持ちながらも、彼は綺麗なままだった。大人たちの狡さや汚さを全く知らない訳ではないだろうに、彼自身は何処も汚れてはいない。
なぁ、バニー。声には出さないまま、眠っている彼に呼びかける。
お前は俺がいてくれたおかげでここまでこれたとか、俺がお前を救ったとか言うけどさ。本当は逆なんだ。俺がお前に救われていたんだ。お前がいたから、まだヒーローでいようと思えたんだ。―――自分が、どれだけ汚れていたとしても。
起きている彼には決して告げることのできない言葉を胸の内に溜め込んだまま、自嘲の笑みだけを零す。それこそ今更だ。選ばざるを得なかったとはいえ、自分で選んだ道なのだ。
あまりそういった経験がないとバーナビーは言っていたが、何回か肌を重ねたのだ。彼も口には出さないが、虎徹が男を相手にした経験があることは気付いているだろう。だが、さすがにその相手が不特定多数であるとは夢にも思っていないに違いない。
所謂、枕営業。最近ではブルーローズのようにアイドルとしてヒーローを売り出すことも増えた分、スキャンダルにしかならないようなこんな接待は廃れている。それでも長くヒーロー業を続けていれば、そんな慣習に巻き込まれることもある。ましてや、虎徹の以前所属していた会社は経営が芳しくなく、そこに更に虎徹が賠償金を上乗せしていたのだ。悪習だろうとなんだろうと、稼ぎになるのならばと駆り出されることになっても、虎徹に拒否権はなかった。
アポロンメディアに移籍してからは、さすがに大企業であるからかそんな話は一切振られることはなかった。もちろんバーナビーとのコンビとしてのイメージだとかの戦略もあったのだろうし、何よりバーナビーとコンビを組んだことで虎徹自身が賠償金を増やさなくなったからでもあっただろう。
だから、もしかしたら、もう止められるのかもしれないと思ったこともあった。だが、それは甘い考えだったとすぐに打ち壊された。淡い期待を抱いていた虎徹に、一番の"お得意様"である男は、まだ私が肩代わりした賠償金は残っているよ、と告げた。曰く、虎徹が枕営業で稼いでいた分の金銭は、当然表に出せるものではない。だから移籍時にも隠されたままで、アポロンメディアに引き継がれなかった賠償金が存在するのだと。男の言葉が真実かどうかを確かめる術はなく、断ればベンなどかつてのスタッフに迷惑をかける可能性がある。そんな中で、虎徹が選べた道は一つだった。
知らず詰めていた息を吐き出す。あぁ、感傷的になり過ぎた。そんなの、全部承知していた筈だ。何を、今更。
バーナビーの告白を受け入れたとき、もうそのときから彼を裏切り続けることになるのは分かっていた。それと分かっていながら受け入れたのは自分だ。ぶつけられた想いを喜んで、酷いことをすると思いながらも手放すという選択肢を捨てたのは、虎徹自身だ。
だから、今更、辛いなんて言うのはお門違いだ。こんなにも汚れた自分を知られてしまって軽蔑されたら、なんて恐怖感を抱くこと自体が間違いだ。被害者はバーナビーで、虎徹は加害者だ。今、バーナビーが虎徹を愛していると言えるのは虎徹のことを知らないからであって、いつかすべてを知った彼が正当な評価を虎徹に下したとしても、虎徹はそれを黙って受け入れる義務がある。
知らず零れそうになっていた嗚咽をどうにか飲み込んで、潤んでいた視界に映るバーナビーをただ見つめ続ける。いつか彼がこの時間を後悔する日が来ても、虎徹は忘れずにいられるように。
つらい、やめたい。音に出せないそれらの言葉達の代わりに、一粒の涙が少し乱れたベッドシーツを濡らした。
(すべてを知ったとき、きっとお前は、俺のことを)
ハルカさんにポーカーで負けて与えられたお題、「枕営業してる虎」でした。
完全にそのへんを割り切っちゃってて、その所為でバーナビーとのこともドライに捉えている虎徹さんも萌えるのですが、今回は敢えて片思いレベルでバニーちゃん愛しちゃってる虎徹さんです。
いや、両想い兎虎ですけども!
この後ばれて揉めて、ヒーローよろしくバニーちゃんは虎徹さんのために頑張ればいいと思うな! てへ!
……ていうかさ、これってもしかしてモブ虎的な意味のお題でしたかハルカさん。だとしたらごめん。
完全にそのへんを割り切っちゃってて、その所為でバーナビーとのこともドライに捉えている虎徹さんも萌えるのですが、今回は敢えて片思いレベルでバニーちゃん愛しちゃってる虎徹さんです。
いや、両想い兎虎ですけども!
この後ばれて揉めて、ヒーローよろしくバニーちゃんは虎徹さんのために頑張ればいいと思うな! てへ!
……ていうかさ、これってもしかしてモブ虎的な意味のお題でしたかハルカさん。だとしたらごめん。