*25話・バディ再結成後
明らかに飲み過ぎだと分かっていたけれど、僕は彼を止めなかった。そのまま酔い潰れてしまえと盃を重ねさせた。口実が、欲しかったからだ。
アルコールに意識を沈めた姿を見て僕が浮かべた醜い笑みなんか、彼は一生知らなくていい。
そう、バーナビーはこの感触を知っている。いや、それ以外の肌のきめ細かさだって、敏感な箇所を撫で上げたときの虎徹の反応だって知っている。事が終わった後の気怠い表情も、愛を囁くときの声の甘さだって知っているのだ。
バーナビーと虎徹は恋人同士だった、……筈だからだ。
好きだと告げた。好きだと返された。身体も重ねた。付き合いましょう、分かりました、なんて言葉を交わしたことはなかったが、お互いにいい大人なのだ。そんなのは必要ないと思っていた。少なくともバーナビーは虎徹を自身の恋人だと思っていたし、虎徹もそう思ってくれていると信じていた。
バーナビーが虎徹に向ける視線も触れる指先も、疑いようもないほど彼への愛しさが溢れていた自覚があるし、それを受け止めていた虎徹も幸せそうに笑っていた。それ以上のものが必要だと思う訳がなかった。あの事件が起こるまで、確かに二人は恋人同士だったのだ。
マーベリックの事件が収束して、二人はヒーローを引退することになって。事件の黒幕が二人の所属する企業のCEOであったことから、二人は引退に際して、世間を飛び交う様々な憶測の収拾に奔走せざるを得なかった。特にマーベリックを後ろ盾としていたバーナビーに対する邪推や興味本位からの不躾な視線は酷いものだった。
それを虎徹の支えもあってどうにか収めたときには、もう二人の道は分かたれていた。虎徹は実家のあるオリエンタルタウンで、バーナビーはシュテルンビルトで。別れの挨拶をするのが精々で、恋人だった二人の関係がどうなるのかを話す暇なんてなかった。なんとなく連絡を取るのも躊躇われて、虎徹に会えないまま1年が過ぎてしまっていた。
そして、今。バーナビーはまたヒーローとして、ワイルドタイガーである虎徹の隣に戻ってきた。それを虎徹も心から喜んでくれた。だから、バーナビーは安易な期待を抱いてしまった。きっと、バディとしての関係と一緒に、また恋人同士にも戻れるのだと。そしてその期待はあっさりと裏切られることになる。
バディヒーロー・タイガー&バーナビーが復帰して数か月は様々な特集企画や取材、インタビューが組まれ、正に分刻みのスケジュールだった。プライベートな時間を過ごす暇はなく、四六時中共に過ごしてはいたが、私的な会話を交わす隙もなかった。
それがようやく落ち着いたのが2週間ほど前のことだ。久しぶりにスケジュールが空いた日の夜、バーナビーは虎徹を自身の家に誘った。酒の肴として純粋に彼との気兼ねない会話を楽しみたかったのが半分、彼が恋人に戻ったことを確認して、その身体に触れたいという下心が半分だ。だが、虎徹はバーナビーからの誘いに少しの間だけ視線を彷徨わせ、二人の馴染みとなっていた店の名前を挙げた。
それから何度か二人きりで食事を共にしたが、それが一度としてお互いの家であったことはなく、店を後にしてからそこを訪れることもなかった。もちろん外で気軽に話せる内容ではなかったから、今の二人の関係が何であるかなども曖昧なままだ。
その現状に、バーナビーは苛立っていた。だから今日、出動時の連携が上手くいったと上機嫌で酒を呷る虎徹を止めなかった。心配する様子を見せながらも、いつものようにグラスを取り上げることはしなかった。酔い潰れた虎徹を、自宅に連れ帰るために。
少し荒れている唇を親指で辿る。先程から触れ続けているというのに、虎徹が起きる気配はない。
もし、と。もしこのまま無理矢理にでも彼を抱いてしまえば、彼はまた自分のものになってくれるだろうか。流されて絆されて、前と同じ関係を許容してくれるだろうか。
そんな最低なことをアルコールに侵された脳でぼんやり考える。本当に虎徹が好きだというなら、そんなことをするべきじゃないということは頭では分かっている。だが、そんな理屈などどうでも良いと思えるほどにバーナビーは虎徹を渇望していた。
この人が何を考えているなんかもういいじゃないか。そうだ、今更確認して何になるっていうんだ。もし、バーナビーと恋人のつもりなんてなかった、別に好きじゃないと言われたところで、もう自分は虎徹を離してやることは出来ないのだ。だったら、もう。
するりとその頬に手を添える。ゆっくりと自身の顔を近付けていく。唇が触れるまで、あと10センチ。そこで今まで何の反応も見せなかった虎徹の瞼が震え―――琥珀色の瞳が覗いた。
一気に酔いが醒めたような心地で身体を強張らせたバーナビーは、とっさに虎徹の顔と距離を取る。一方の虎徹は上手く状況を理解出来ないでいるのか、何も言葉を発しない。ぼんやりとした瞳のまま舌足らずな口調でバーナビーの名前を呼ぶ姿を見て、彼が寝惚けていることに気付き、内心胸を撫で下ろす。身体だけでも、なんて最低なことを考えもしたが、やはり虎徹に嫌われたくはないのだ。
「なんだ、またバニーちゃんの夢かぁ……こんなに毎日見るとか、俺どんだけバニーちゃんのこと好きなんだよ」
へにゃり、そんな笑顔を浮かべながら寝惚けた虎徹が言葉を紡ぐ。その表情はいつかの夜のような完全にバーナビーを信頼しきったものだったが、今のバーナビーにはそれに意識を割く余裕がない。虎徹は今、なんと言っただろうか。
すき、と。バーナビーのことを、好きだと言っただろうか。
「……好き、って……虎徹さんが、…僕を、ですか?」
一度だって言われたことのなかった言葉に、声が震える。間違いだったらという恐怖ともしかしたらという期待。相反する二つの感情が急に押し寄せてきて、思考が上手く働かない。
そんなバーナビーの反応に首を傾げながらも、虎徹はまた柔らかく笑う。
「うん、好き。大好き。だから、ちゃーんとバニーちゃんが幸せになれるように見守っててやるからな。邪魔したりしないからな」
「…………邪、魔?」
突然出てきた理解できない単語に、今度はバーナビーが首を傾げる。僕の幸せの、邪魔ってなんだ。何の話だ。
問い詰めるかのような真剣さをもって迫るバーナビーに、また虎徹が首を傾げる。大方"いつもの夢に出てくるバーナビー"との差に違和感でも抱いているのだろうが、そんなことに構ってはいられなかった。初めて虎徹の本心を知ることができる機会なのだ。これを逃す訳にはいかなかった。
答えを促すように名を呼べば、虎徹はぽつぽつと語りだした。
「だってさ、言ってたじゃん。バニーはこの一年で色んなことして、いっぱいの人に会って、それを楽しいって感じたんだろ。なら、プライベートまでバニーちゃんの隣にいつまでも俺がいちゃ邪魔じゃんか」
そこで虎徹が一度言葉を切る。本人も自分の気持ちを上手く表す言葉を見つけられないでいるようだった。それをバーナビーは辛抱強く待ち続ける。
あーだのうーだの呻いていた虎徹だが、もともと頭で考えるのは性に合わない人間だ。諦めたように口を開く。
「その、さ。そしたら、バニーちゃんきっと好きな人出来るだろ。俺みたいに隣にいただけの奴じゃなくて、もっと趣味とか話とか色々合う人と会うだろ。それが女でも男でもいいけどさ、そんな奴に会えたら、バニーちゃんはそいつといた方がいい。俺はバニーちゃんが好きだから、そういう人とバニーが出会えたら、良かったとも思うし嬉しいけど、やっぱり寂しくて、……だから、邪魔しないように、いなくなるから。傍に、行き過ぎないようにするから、だから」
ただ、せめてヒーローとしてはバディでいさせてくれ。
消え入りそうな小さな声で、要領の得ない話の終わりを虎徹はそう締めくくった。
泣きそうだ。今すぐ、子供のように泣き出してしまいたい。
今にも決壊しそうな感情をバーナビーはどうにか塞き止めるが、きっと表情は歪んでしまっている。でもそれは仕方がないことだ。虎徹は今、自分が何を言ったのか分かっているのだろうか。こんなの、バーナビーが誰よりも好きで大事なのだと、熱烈に告白したのと同じだ。
虎徹と二人で訪れたバーでの会話を思い出す。促されるまま口にしたこの一年の出来事を、彼はどんな思いで聞いていたのだろう。感情を全て穏やかな表情の下に押し隠して、離れる決意を固めていたのだろうか。
「…………っ…違う……!」
「へ?」
詰まりそうな喉を使って、どうにか声を絞り出す。気恥ずかしくて言えなかったが、きっとこの想いは今伝えなければならない。そうしなければ、虎徹もバーナビー自身も傷付いていくだけだ。
「僕はこの一年、いつだってあなたのことばかりだった。何をしても、虎徹さんならどうするかって考えてた。誰と会っても、虎徹さんと気が合いそうだとか、そんなことばかり考えていたんです。離れていたって、他の誰といたって、――――僕の世界をどれだけ広げたって、僕の中にはどうしようもなくあなたがいた!」
堪えていた筈の涙が一粒、バーナビーの瞳から虎徹の頬へと落ちた。ようやくこれが夢でないことを理解した虎徹の目が驚きに見開かれている。分かって欲しい。バーナビーには虎徹が必要なのだと。ただ傍に居たからあんな関係になったのではない。虎徹だから、触れたいと、傍に居て欲しいと思ったのだ。
「……僕を、幸せにして下さい。貴方が傍に居てくれるなら、それだけで僕は幸せになれます。そして、できるなら」
そっと自身の額を虎徹のそれに合わせる。真近に迫った、年齢の割に若い顔が泣きそうに歪められたが、それが辛そうなものでないことにまた涙が零れた。
大丈夫だ、この人も僕も、同じ気持ちだ。それが確信としてバーナビーの胸に満ちる。
「僕の隣で、あなたも幸せになって」
ぽろり、虎徹の瞳からも涙が一筋滑り落ちた。それが何よりの答えだった。二人の間に交わされた言葉はなかったけれど、十分だった。バーナビーは虎徹が、虎徹はバーナビーが好きで必要で。お互い、それを理解した。それで十分だった。
本当はきっと、もっと色々と話さなければならないこともあると分かっていたが、今だけは。
どちらともなく唇を重ねる。一年ぶりの口付けは、甘い涙の味だった。
(あなたがいない幸せなんて、存在しないのです)
明らかに飲み過ぎだと分かっていたけれど、僕は彼を止めなかった。そのまま酔い潰れてしまえと盃を重ねさせた。口実が、欲しかったからだ。
アルコールに意識を沈めた姿を見て僕が浮かべた醜い笑みなんか、彼は一生知らなくていい。
幸せの在り処
その細い体を寝室のベッドに横たえると、虎徹は小さく呻きながら寝返りを打った。閉じた瞳と緩んだ表情、それとアルコールの所為で普段よりも高い体温。それらが腕から失われたことに心許なさを感じて、横を向いている顔に手を伸ばす。触れた頬は記憶にある通りの手触りで、自身の身体の奥の方で何かが溢れだすのが分かった。そう、バーナビーはこの感触を知っている。いや、それ以外の肌のきめ細かさだって、敏感な箇所を撫で上げたときの虎徹の反応だって知っている。事が終わった後の気怠い表情も、愛を囁くときの声の甘さだって知っているのだ。
バーナビーと虎徹は恋人同士だった、……筈だからだ。
好きだと告げた。好きだと返された。身体も重ねた。付き合いましょう、分かりました、なんて言葉を交わしたことはなかったが、お互いにいい大人なのだ。そんなのは必要ないと思っていた。少なくともバーナビーは虎徹を自身の恋人だと思っていたし、虎徹もそう思ってくれていると信じていた。
バーナビーが虎徹に向ける視線も触れる指先も、疑いようもないほど彼への愛しさが溢れていた自覚があるし、それを受け止めていた虎徹も幸せそうに笑っていた。それ以上のものが必要だと思う訳がなかった。あの事件が起こるまで、確かに二人は恋人同士だったのだ。
マーベリックの事件が収束して、二人はヒーローを引退することになって。事件の黒幕が二人の所属する企業のCEOであったことから、二人は引退に際して、世間を飛び交う様々な憶測の収拾に奔走せざるを得なかった。特にマーベリックを後ろ盾としていたバーナビーに対する邪推や興味本位からの不躾な視線は酷いものだった。
それを虎徹の支えもあってどうにか収めたときには、もう二人の道は分かたれていた。虎徹は実家のあるオリエンタルタウンで、バーナビーはシュテルンビルトで。別れの挨拶をするのが精々で、恋人だった二人の関係がどうなるのかを話す暇なんてなかった。なんとなく連絡を取るのも躊躇われて、虎徹に会えないまま1年が過ぎてしまっていた。
そして、今。バーナビーはまたヒーローとして、ワイルドタイガーである虎徹の隣に戻ってきた。それを虎徹も心から喜んでくれた。だから、バーナビーは安易な期待を抱いてしまった。きっと、バディとしての関係と一緒に、また恋人同士にも戻れるのだと。そしてその期待はあっさりと裏切られることになる。
バディヒーロー・タイガー&バーナビーが復帰して数か月は様々な特集企画や取材、インタビューが組まれ、正に分刻みのスケジュールだった。プライベートな時間を過ごす暇はなく、四六時中共に過ごしてはいたが、私的な会話を交わす隙もなかった。
それがようやく落ち着いたのが2週間ほど前のことだ。久しぶりにスケジュールが空いた日の夜、バーナビーは虎徹を自身の家に誘った。酒の肴として純粋に彼との気兼ねない会話を楽しみたかったのが半分、彼が恋人に戻ったことを確認して、その身体に触れたいという下心が半分だ。だが、虎徹はバーナビーからの誘いに少しの間だけ視線を彷徨わせ、二人の馴染みとなっていた店の名前を挙げた。
それから何度か二人きりで食事を共にしたが、それが一度としてお互いの家であったことはなく、店を後にしてからそこを訪れることもなかった。もちろん外で気軽に話せる内容ではなかったから、今の二人の関係が何であるかなども曖昧なままだ。
その現状に、バーナビーは苛立っていた。だから今日、出動時の連携が上手くいったと上機嫌で酒を呷る虎徹を止めなかった。心配する様子を見せながらも、いつものようにグラスを取り上げることはしなかった。酔い潰れた虎徹を、自宅に連れ帰るために。
少し荒れている唇を親指で辿る。先程から触れ続けているというのに、虎徹が起きる気配はない。
もし、と。もしこのまま無理矢理にでも彼を抱いてしまえば、彼はまた自分のものになってくれるだろうか。流されて絆されて、前と同じ関係を許容してくれるだろうか。
そんな最低なことをアルコールに侵された脳でぼんやり考える。本当に虎徹が好きだというなら、そんなことをするべきじゃないということは頭では分かっている。だが、そんな理屈などどうでも良いと思えるほどにバーナビーは虎徹を渇望していた。
この人が何を考えているなんかもういいじゃないか。そうだ、今更確認して何になるっていうんだ。もし、バーナビーと恋人のつもりなんてなかった、別に好きじゃないと言われたところで、もう自分は虎徹を離してやることは出来ないのだ。だったら、もう。
するりとその頬に手を添える。ゆっくりと自身の顔を近付けていく。唇が触れるまで、あと10センチ。そこで今まで何の反応も見せなかった虎徹の瞼が震え―――琥珀色の瞳が覗いた。
一気に酔いが醒めたような心地で身体を強張らせたバーナビーは、とっさに虎徹の顔と距離を取る。一方の虎徹は上手く状況を理解出来ないでいるのか、何も言葉を発しない。ぼんやりとした瞳のまま舌足らずな口調でバーナビーの名前を呼ぶ姿を見て、彼が寝惚けていることに気付き、内心胸を撫で下ろす。身体だけでも、なんて最低なことを考えもしたが、やはり虎徹に嫌われたくはないのだ。
「なんだ、またバニーちゃんの夢かぁ……こんなに毎日見るとか、俺どんだけバニーちゃんのこと好きなんだよ」
へにゃり、そんな笑顔を浮かべながら寝惚けた虎徹が言葉を紡ぐ。その表情はいつかの夜のような完全にバーナビーを信頼しきったものだったが、今のバーナビーにはそれに意識を割く余裕がない。虎徹は今、なんと言っただろうか。
すき、と。バーナビーのことを、好きだと言っただろうか。
「……好き、って……虎徹さんが、…僕を、ですか?」
一度だって言われたことのなかった言葉に、声が震える。間違いだったらという恐怖ともしかしたらという期待。相反する二つの感情が急に押し寄せてきて、思考が上手く働かない。
そんなバーナビーの反応に首を傾げながらも、虎徹はまた柔らかく笑う。
「うん、好き。大好き。だから、ちゃーんとバニーちゃんが幸せになれるように見守っててやるからな。邪魔したりしないからな」
「…………邪、魔?」
突然出てきた理解できない単語に、今度はバーナビーが首を傾げる。僕の幸せの、邪魔ってなんだ。何の話だ。
問い詰めるかのような真剣さをもって迫るバーナビーに、また虎徹が首を傾げる。大方"いつもの夢に出てくるバーナビー"との差に違和感でも抱いているのだろうが、そんなことに構ってはいられなかった。初めて虎徹の本心を知ることができる機会なのだ。これを逃す訳にはいかなかった。
答えを促すように名を呼べば、虎徹はぽつぽつと語りだした。
「だってさ、言ってたじゃん。バニーはこの一年で色んなことして、いっぱいの人に会って、それを楽しいって感じたんだろ。なら、プライベートまでバニーちゃんの隣にいつまでも俺がいちゃ邪魔じゃんか」
そこで虎徹が一度言葉を切る。本人も自分の気持ちを上手く表す言葉を見つけられないでいるようだった。それをバーナビーは辛抱強く待ち続ける。
あーだのうーだの呻いていた虎徹だが、もともと頭で考えるのは性に合わない人間だ。諦めたように口を開く。
「その、さ。そしたら、バニーちゃんきっと好きな人出来るだろ。俺みたいに隣にいただけの奴じゃなくて、もっと趣味とか話とか色々合う人と会うだろ。それが女でも男でもいいけどさ、そんな奴に会えたら、バニーちゃんはそいつといた方がいい。俺はバニーちゃんが好きだから、そういう人とバニーが出会えたら、良かったとも思うし嬉しいけど、やっぱり寂しくて、……だから、邪魔しないように、いなくなるから。傍に、行き過ぎないようにするから、だから」
ただ、せめてヒーローとしてはバディでいさせてくれ。
消え入りそうな小さな声で、要領の得ない話の終わりを虎徹はそう締めくくった。
泣きそうだ。今すぐ、子供のように泣き出してしまいたい。
今にも決壊しそうな感情をバーナビーはどうにか塞き止めるが、きっと表情は歪んでしまっている。でもそれは仕方がないことだ。虎徹は今、自分が何を言ったのか分かっているのだろうか。こんなの、バーナビーが誰よりも好きで大事なのだと、熱烈に告白したのと同じだ。
虎徹と二人で訪れたバーでの会話を思い出す。促されるまま口にしたこの一年の出来事を、彼はどんな思いで聞いていたのだろう。感情を全て穏やかな表情の下に押し隠して、離れる決意を固めていたのだろうか。
「…………っ…違う……!」
「へ?」
詰まりそうな喉を使って、どうにか声を絞り出す。気恥ずかしくて言えなかったが、きっとこの想いは今伝えなければならない。そうしなければ、虎徹もバーナビー自身も傷付いていくだけだ。
「僕はこの一年、いつだってあなたのことばかりだった。何をしても、虎徹さんならどうするかって考えてた。誰と会っても、虎徹さんと気が合いそうだとか、そんなことばかり考えていたんです。離れていたって、他の誰といたって、――――僕の世界をどれだけ広げたって、僕の中にはどうしようもなくあなたがいた!」
堪えていた筈の涙が一粒、バーナビーの瞳から虎徹の頬へと落ちた。ようやくこれが夢でないことを理解した虎徹の目が驚きに見開かれている。分かって欲しい。バーナビーには虎徹が必要なのだと。ただ傍に居たからあんな関係になったのではない。虎徹だから、触れたいと、傍に居て欲しいと思ったのだ。
「……僕を、幸せにして下さい。貴方が傍に居てくれるなら、それだけで僕は幸せになれます。そして、できるなら」
そっと自身の額を虎徹のそれに合わせる。真近に迫った、年齢の割に若い顔が泣きそうに歪められたが、それが辛そうなものでないことにまた涙が零れた。
大丈夫だ、この人も僕も、同じ気持ちだ。それが確信としてバーナビーの胸に満ちる。
「僕の隣で、あなたも幸せになって」
ぽろり、虎徹の瞳からも涙が一筋滑り落ちた。それが何よりの答えだった。二人の間に交わされた言葉はなかったけれど、十分だった。バーナビーは虎徹が、虎徹はバーナビーが好きで必要で。お互い、それを理解した。それで十分だった。
本当はきっと、もっと色々と話さなければならないこともあると分かっていたが、今だけは。
どちらともなく唇を重ねる。一年ぶりの口付けは、甘い涙の味だった。
(あなたがいない幸せなんて、存在しないのです)
……ぐだぐだ長いですね? 予定外にプロポーズみたいな話になりましたね?
タイトルに困ってやっつけで付けたらやたら恥ずかしいですね?
……………………………………………あれれ?
タイトルに困ってやっつけで付けたらやたら恥ずかしいですね?
……………………………………………あれれ?