信長→←濃姫←光秀
――― 光秀視点 ―――

 あの人が、血に塗れている。
 その様子からして、敵の返り血だけ、という訳ではなさそうだ。恐らく、意識も朦朧としているのだろう。
 それでも、命の限り舞うのは。あの男のため。

「私には関係のない話ではありますが……貴方に死なれると、些か夢見が悪い」

 振り上げた鎌を無造作に振るって、目の前の「モノ」を切り捨てる。

「帰蝶……死ぬことは、許しませんよ」

 その障害となるものは。今、私が切り捨てる。


――― 濃姫視点 ―――

 視界が、歪む。もはや狙いなどつけられてはいない。ただ、人の気配がする方へと撃っているだけだ。
 倒れるわけには、いかない。その想いだけで引き金を引き続ける。あの方の、お役に立てるのなら。この身など、どうなったって構いはしない。
 あの方が天下人となるために、あの方の望みを叶える為に。私が出来ることなど、これしかありはしないから。
 このときだけ、私はあの方のお役に立てるのだから。

「上総介様……」

 突如、背後から襲った衝撃に、意識が消えゆく瞬間。
 零れたのは、やはりあの方の名だった。


――― 信長視点 ―――

 その身体が崩れ落ちるのを見て。周囲にいた雑兵を蹴散らし、その身体の前へと出る。抱き起こすことはしない。それを望む女ではないことは分かっていた。
 だから、手を貸すことなどしない。だが。
 むざむざと殺させることはしない。

「ふん……余に楯突く愚か者どもよ……死ねぃ!!」

 手にした刀を振るう。
 敵を斬るだけだ。その結果として、自身の背後を守ることになっただけだ。
……何だかよく分からなくなった。織田軍は難しい。
本当は伊達の忍な佐助の佐幸?
「佐助、ずっと共にあってくれ。お館様が天下を取った、その先も」

 そう言って穏やかに笑う旦那。
 頼むような形ではあるが、きっと俺がいなくなるなんて思っていないのだろう。ましてや、それが裏切りという形だなどとは、夢にも思っていないに違いない。

 そう演じてきたのだ。出会ってから、ずっと。
 だから、今だって否定が返って来ることなんて考えもしていない。


 そう、是と答えてしまえば良いんだ。そうすれば、きっと旦那は喜ぶ。
 それに何より、忍として「仕事」のやりやすさを考えるなら一言言えば良い。
「当たり前」と。

 でも。
 密かな、本人も気付いていない程の淡い感情を利用したくはなかった。
 ……傷付けたく、なかった。

 あぁ。
 そうしてまた、俺はこの人の真っ直ぐな気持ちを冗談にして誤魔化すのだ。
 ……いつか、「その日」が来るまで。
……えーと、………佐幸!(黙れ)
光→濃
 彼女を手に入れたい、などと思ったことなど、一度もない。

 それは、彼女が主君の、信長公の妻だからなどではない。そんな理由で遠慮する精神など、生憎と私は持ち合わせてはいない。
 ただ、そう思ったことがないのだ。自分だけのものにしたいと、思わないのだ。
 だが。

(あ…また……)

 ふとした瞬間。
 彼女の姿を探してしまう。見つけると目で追ってしまう。

(……何なんでしょう、コレは)

 私は、この感情を表す言葉を持たない。
 何と呼ばれる感情なのかを知らない。

(でも…まあ……)

 何故だか悪い気はしない。
 だから、このままでも良いのだろう。

 ―― ただ、一つ望むなら。
 視界に入る彼女が、幸せそうに笑っていれば、と思うのだ。
光秀はずっと自覚なく片思いし続けてれば良いとかいう妄想。
濃姫は信長様の傍に居ることを望んでいて、手に入れることは彼女の幸せじゃないから望まないとかそんな(分からん)。
佐政佐
「俺のモノになる気はねぇか」


 何気なくそう問い掛ければ、目の前の忍は冗談、と笑った。

「俺様、一応敵方の忍だよー? 今は同盟結んでるとはいえ、そんなの無理無理」

 だったら、偵察の任に就いてる筈のこいつが、俺の隣りで茶なんか飲んでること自体がおかしいだろうとは思う。
 どうせ適当に流されるだろうから言わないが。

「ンだよ、そんなにあいつが大切かよ」

 溜め息と共に言葉を吐き出せば、あれ、嫉妬?なんて楽しそうに訊いてくる。あながち間違いでもないと思いつつも、絶対に認めてなどやらない。
 Shut up!と言えば、意味は分かってないにしろ雰囲気で感じ取ったのか、佐助は黙った。

 あぁ、こんなところが。
 物分かりのいい振りをしようとするところが嫌いだ。
 望むものがある癖に。

「…竜の旦那」

 ぽつりと呼ばれた声に視線を向けると、さっきまでが嘘のように真剣な表情。何処か、影を帯びた顔を歪めて笑う。
 きっと、主には見せない表情。

「俺はさ、あんたのことが好きだよ。多分、あんたが俺を想うのと同じ感情で」

 その言葉に口を開きかけて、制される。
 駄目だ、と首を振られる。

「でもね、俺は武田を、…真田の旦那を捨てられない。あんたを想うのとは違う感情だけど、好きで大切なんだ」

 知ってる。そんなことは初めから承知だ。こいつら二人には、俺が割って入れないものがあると。
 それでも。
 それでもお前を望むと言ったら、……お前はどうする?

 言葉にすることを封じられた想いを告げるように、その唇に口付ける。
 いっそ、拒んでくれたら良いのに、と思いながら。
どっちも、別の意味で大切な佐助。分かってるけど歯痒い政宗様。
………なんだこれー(遠い目)。
佐政佐
 は、と。
 無理矢理眠りから醒めた目を見開くと。開けた筈の視界は、夢の中と同じく、漆黒の闇だった。

 当然だ、今はまだ深夜なのだろう。明かりを落とした室内が暗いのは当たり前だ。
 そう自分に言い聞かせる。しかし、夢と現の境が曖昧になっている頭は、この闇に別の理由をつけようとする。
 今も耳に残る、冷たい声。


― お前など私の子では無い ―


「……母上」

 零れた呟きが、思った以上に弱々しくて舌打つ。もう何年も前のことなのに、いつまで自分は引きずる気なのか。
 叫んでも振り向いてもらえることはなく。伸ばした手は払われ。
 ならば、もういらない、と。もう望まない、と。そう、思い切った筈なのに。
 未だに女々しく夢に見る。


 きっと、自分は何処かが欠けている。その亀裂から、いつか自分を支えている全てが崩壊するのだろう。
 そして、それが分かっているからこそ、自分は他者と深く関わることが出来ない。それは、崩壊を早めてしまう。自分を壊されてしまう。


 ……ああ、それでも。
 この闇を切り裂くような、あの色に。太陽の色に。会いたい、と思ってしまう。

 なんという矛盾だろう。
 どうせ、その姿に手を伸ばすことなど出来ないくせに。
……うぅん。不完全燃焼ですぎゃふん。佐政佐にしようとして派手にポシャった(痛)。
超S気質で強引なくせに臆病な政宗様に萌えます。