佐政佐
「「……はぁ………」」

 重なる溜め息。
 つい先程、喧嘩腰だったとはいえ、やっと自分達の想いが一方通行でないことを確認しあったばかりとは思えない程の重さを持つ互いのそれを聞いて、佐助と政宗の二人はもう一つ溜め息を吐いた。
 本来なら甘い時間を過ごしても良いところだが、二人が今抱えているのは幸せというよりは虚脱感に近いものだった。

((……いや、だって、どうしろっていうんだ))

 先程までは売り言葉に買い言葉、応酬をしているときはそんなことまで気が回らずにいたが、正直この状況は不味いのではないだろうか。
 いや、"ではないだろうか"ではなく確実に不味い。自分達は敵同士だ。
 しかも国主と忍という、重さや形は違えど、どうしても捨てられないものを抱えている二人なのだ。想いが通じたとはいえ、それを素直に喜び浸れる神経は持ち合わせていなかった。

「……どーすんだ、おい」
「俺様に訊かないでよ…」

 解決法なんて、ない。
 それを分かり切った上で二人は悩む。二人が守りたいものが相容れない以上、残された道は敵対しかない。

 再び溜め息。
 それは意図せずして唱和するかのように静かな部屋に溶ける。
 そしてそれを追い掛けるように響くのは、押し殺した二つの笑い声。


「……テメェ、何でさっきから同じtimingで溜め息吐いてんだよ」
「それはこっちの台詞だよ、何なのさ」


 あぁ、もうどうでもいいか。
 悩んだってどうにもならないし、抱えてるものも捨てられない。なら、何も犠牲にしなくてもいい今だけ、戦ではない今だけくらい、何も考えずにただ幸せを幸せとして受け入れてもいいではないか。

 そう悩むのを放棄して――二人は笑った。
恋なんて馬鹿じゃなきゃできない
(今だけ、今だけくらいはどうか許して)
色々と考え過ぎがちなふたり。終わりを覚悟した上で始まるのに萌える(黙ろうね)。

title by 確かに恋だった

親就
 目の前でにこにこと笑み崩れている元親を見て、元就は眉間の皺を深める。
 そして考える。


 ……この男は、こんな性格だっただろうか。


 いや、そんな筈はないと即座に否定する。全く違うとまでは言わないが、ここまでではなかったはずだ。
 初めて会ったのが戦場だったこともあるが、もっと精悍な顔つきで、戦を楽しむかのような獰猛な笑みを浮かべていて、もっと――

 そこまで考えて元就は思考を打ち切る。このまま考えていたら、どうにも不都合というか不愉快な結論に達しそうだ。
 そう、以前がどうだったかは置いておいて、元親が今のようになってしまったのはいつ頃からで、何が切っ掛けだっただろうか。
 それこそ考えるまでもない。元就と恋仲と呼ばれる間柄になってからだ。

 自分が元親を現状のように変えてしまったという事実に、元就は何とも表現し難い気持ちになり頭を抱えた。慌てて心配そうに駆け寄ってくる元親の姿に、頭痛が酷くなったような気さえしてくる。

 あまりの事実に溜め息を吐く気にすらなれず、やり場のない感情の捌け口として、取り敢えず手近にあった銀髪頭を殴り飛ばした。
恋は人を狂わせると言うが、まさしくその通り
(結局、この男も自分も)
アニキなチカに惚れたんだけど今のデレデレヘタレなチカも満更でもないナリ様。

title by 確かに恋だった

長市
 寒い、だとか、冷たい、だとか感じた訳ではないけれど。
 触れたときに感じた熱が失われてしまった気がして、市は振り払われたばかりの手をもう一度伸ばす。
 再び振り払われることを恐れているかのように、ゆっくりと。

 反射的な行動だったとはいえ、妻の手を払い落としてしまったことに罪悪感を感じていた長政は、気恥ずかしい思いを押し込めて思わず身を引こうとしてしまう己を叱咤する。
 市を悲しませるよりは、と。


 震える指。竦む身体。
 ゆるゆると近付いていく、距離。

 触れた己と異なる熱に、どちらからともなく指を絡ませた。
喪失感に再び指を絡ませる
(この温もりがこんなにも愛しい)
長政様は平熱高そうだよねっていう(何)。

title by 確かに恋だった

学パロ佐幸
 連絡事項を読み上げる担任の声を聞きながら、窓際の席の幸村はふと外のグラウンドに視線を向けた。帰宅しようと校門に向かう生徒達の中によく見知った橙色を見つけ、一瞬硬直し。
 次の瞬間、教室のドアに駆け寄ると、ばたん、というよりは、がしゃん、とガラスにヒビが入りそうな音を立てて開き、そのまま屋上へと駆け出した。
 担任教師が何か幸村に叫んだようだが、止まる訳にはいかない。彼が、佐助が帰ってしまう。


 佐助のクラスのホームルームはいつも短い。だから彼は、一緒に帰るときは幸村のクラスまで迎えに来てくれる。
 ああ、だがそういえば、今日は駅前のスーパーがタイムセールだとかで先に帰ると登校するときに言っていたような気もする。幸村は今日こそこの秘めてきた想いを佐助に告げようと朝から緊張し続けていたから、そのことをすっかり忘れていた。

 幸村と佐助は従兄弟同士であり、現在揃って信玄の家に下宿させてもらっているので、わざわざ学校で告げる必要はない。だが、あまりに"家族"として慣れ親しんでしまった空間では、この想いが正しく伝わらないような気がしたのだ。恋愛ではなく親愛のものと誤解されてしまうのは、幸村にとって最も避けたい事態だった。だから、どうしても今告げなければならないのだ。


 別に、何か意味があって今日を選んだ訳ではない。それでも決死の覚悟で今日告げると決めたのだ。その今日を逃してしまえば、いつ想いを告げる勇気が出るか分からない。

 どうか、間に合ってくれ。

 祈るように呟いて手を掛けた屋上のフェンスから見下ろしたグラウンドには、まだ校門へと向かう彼の姿があった。
 高鳴る胸。上がる体温。全てを伝えてるために、思いきり息を吸い込んで、そして。


「1-Bの真田幸村はァ!2-Cの猿飛佐助のことが大好きでござるゥゥゥ!!!」


 思い切り叫ぶ。
 考えていたのとは相当違う展開になってしまったが構わない。だって、想いは伝わったのだ。

 段々と赤くなっていく佐助の顔を見ながら、幸村は満足そうに笑った。
告白にルールなんてない
(返事はもちろん、)
下校する生徒多数の中、屋上からの告白劇。佐助大好き幸村の視力は2.0です。

title by 確かに恋だった

親就
 ちらりちらりと向けられる視線を感じて元親が振り向けば、そこにあるのは変わらず凛と伸びた背中だった。
 ただ黙々と政務を全うしているかのような元就の姿に笑いが込み上げて来るのを、どうにか胸の内だけでやり過ごす。つい先程まで、筆が紙の上を滑る微かな音が途切れていたことに気付かないとでも思っているのだろうか。

(……いや、分かってる、か)

 分かっていても振り向けないのだ。恐らくは、出迎えのときの冷たい問答を気に病んでいるに違いない。
 それを思えば、背中を向けられたままのつれない姿も、元親にとっては愛しくて堪らない。

 多少邪険に扱われた程度で、今更元親が元就を嫌悪する訳がない。
 それは元就も知っているのに、こうして不安がってみせるその姿が。素直になれず意地を張ってしまうその態度が。
 それは元就が元親のことを考えてしまうからだと知っているから、それら全ては元親にとって愛しいものなのだ。

(あぁ、でも、そろそろ)

 そう、その背中も愛しいが、やはり顔が見たい。それが偽らざる元親の本心で、恐らく元就もそう思ってくれている筈だ。
 だから、背中も無言も良いけれど、
知ってるよ、好きだから
(そろそろこっちを向いて)
取り敢えず甘いのが書きたかっただけなんですが、前にも似たような話を書いたような気がする不思議(お前)。

title by 確かに恋だった

佐助+弁丸
 先程までぎゅうとしがみついてきていた幼い手足は、意識が深い眠りに誘われるに従ってゆるやかに力が抜けていき。穏やかな寝息を立てている今では、もみじのような手の指先が佐助の衣服に僅かに引っ掛かっているだけになっていた。
 外そうと思えば外せるそれをそのままに、佐助は苦笑とも呆れともとれる溜息を一つ零す。

 佐助が自身の幼い主に呼び付けられたのは、ほんの数刻前。
 ここ最近、部屋の明かりが消されてから佐助が弁丸に呼び付けられることは、ほとんどなくなっていた。眠れないから寝物語をしろだの、一緒に寝ようだのと駄々ばかりこねている弁丸だったが、幼いとはいえ彼も真田家の次男坊。そろそろ大人になってもらわねばと、我が儘の被害にあっていた佐助に、近頃旺盛になっていた自立心らしきものを利用されて「もう一人で寝る」との言質を取られていたからだ。意地比べと言わんばかりの不満そうな表情ながらも、一人で床についていた。
 そんな弁丸の久しぶりの呼出しに嫌な予感を抱きつつも参じれば、出向かえたのは満面の笑顔。
 曰く、「このように寒い夜は、体温の低い佐助には辛かろう。弁丸が温めてやる」と。

 そのまましがみつかれ、なし崩しに共寝の体勢になり、――今に至る。

 眠っていて揉めることはないのだ、さっさと抜け出してしまえばいい。そもそも一人で寝るよう仕向けたのは佐助自身だ。
 そう思っているのに動けないのは、やはりこの温かさが離し難いからなのか。忍として訓練されている身体とはいえ、この寒さは身に染みるのは確かだ。
 何はともあれ、今夜は急ぎの仕事はなかった筈だ。ならば。

 もう一つ溜息をついて、佐助も眠りにつくべく目を閉じた。
久しぶりなので文章リハビリ。最近寒くて堪らないのです。
幸+佐 現代転生パロ
 本当は、いつだって来れたんだ。高校生になって、バイトだって出来るようになった。交通費くらいいくらでも稼げた。その気になれば、いつだってこの街に来れてたんだ。
 それでも、この街だけは訪れることが出来なかった。

 この時代に生まれて、既に16年。"自分"が生きた時代は遥か遠い昔のことだ。 その間に何もかもが変わってしまっているなんて、十分過ぎる程に理解している。400年という時間の重さは、誰よりも知っているつもりだ。
 だからこそ、この街だけは。自分が守り続けたこの上田の地だけは、何もかもが変わり、何も残っていないことを思い知らされるのが怖かった。

 今回、ようやく訪れる決心が付いたのは、隣にいる同行者のお陰だ。
 400年経とうと変わらないものもあると、その身を以って佐助が示してくれる。ならば、他の何が変わっていても受け入れてみせようと決めたのだ。

 だが、そんな決意は、かつての自城の名を冠する駅に降り立ってすぐに消し飛んだ。
 看板、街灯、マンホール。街の至る所に、見覚えのある印がある。いや、見覚えがあるどころじゃない。あれはかつてこの背に負っていたものだ。
 真田の、六文銭。
「……無駄では、なかったのだな」

 呆けたように漏れた言葉。本当に無意識だった所為か、それが自分の声だと気付くのに若干の間があった。
 しかし、そのお陰で唐突に解った。悟った。自分が、この地を恐れていた訳を。

「義と信念に殉じたあの生を後悔する気は欠片もないが、……不安、だったのだ。成し得たことはあまりに小さく、遺せたものはあまりに少ない。だから、何も"俺"が生きた証は何もないのだと」

 何度となく考えた。あのときの決断は、間違いではなかったかと。何としてでも生き延びて、為すべきことがあったのではないかと。
 これが、この街の在り様が、きっと一つの答えなのだろう。

  「……全部が全部なくなる訳じゃないってこと、だね」

 背後から楽しそうな声が降る。振り向いた先には、悪戯が成功したと喜ぶ佐助の顔。
 あぁ、全て知っていたのだな。自分ですら気付いていなかった不安も、この答えも。

 零れそうになった涙を堪えようと、空を見上げる。
 そこにも一つ、変わらないものを見つけて、堪えきれなかった一滴が頬を伝った。
セピア色の思い出から、鮮やかな現実へ
(こんなにも同じく、碧い)
上田は至る所に六文銭があって心臓に負担がかかる素敵な街です。笑顔。
えええなにこれー!!な勢いで出来た妄想なので、偽シリアス……。

title by 確かに恋だった