空に、心に、広がる闇を切り裂くその光は。
いつだって、大切な"あなた"という存在。
障子を開いてみれば、自身の部屋と同様に暗く澱んだ空が広がっている。
「……雷………」
未だ低く唸り続ける雷雲を何とはなしに見上げていたら、その音に応えるように、ぽつりぽつりと雨粒が落ちてきた。疎らだったそれは、瞬く間に土砂降りとなる。
もはや豪雨といって差し支えないそれを眺めながら、これは一体誰が起こしているのだろうかと、ふと考える。
雨も雷も、全て空で起こっていることだ。ならば、それを起こしている何かも空にいるのだろう。
では、その"何か"とは何だろうか。
「……空……天、ね……」
市自身あまり詳しくはないが、異国の神などは遥か高みにある天上の世界にいるという。もしかしたら、その神とやらが起こしているのかもしれない。
もし、そうなのだとしたら。
市はくるりと首を回し、自分の周囲を見渡す。遠くの方で時折光る稲妻。止む気配のない雨。暗く、闇に包まれた世界。
こんな世界を作り出す神は、きっと怒っているに違いない。その怒りは、もしかしてあの兄に対するものだろうか。人の身でありながら魔王を名乗り、非道な振る舞いを続ける兄に。そして、その行いを正すことも止めることも出来ない、血を同じくする市への。
そう考えると、つい先程まで何でもなかった雷が、途轍もなく恐ろしいものに思えた。あの雷は、神の怒りを以って市に降り注ぐかもしれない。市という存在を消そうと、今この瞬間も狙っているのかもしれない。
俄かに身体が震え出す。揺らいだ視界に、一際強い光が焼きついて。続いてやってくるであろう轟音を聞きたくなくて、耳を手で塞いで蹲るように身体を丸めた。
「 ――― 市!? どうした!!??」
しかし、市の耳に飛び込んできたのは、雷鳴ではなく聞き覚えのある声。
そろそろと身体を起こして視線を上げると、夫である長政が慌てたようにこちらに駆け寄ってきた。
「長政様……」
「具合でも悪いのか!? 何処か怪我でもしたのか!?」
そんなことはない。そう否定の意を込めて首を横に振る。
ならば、と更に言い募ろうとした長政の言葉を遮るように、遅い雷鳴が響いた。思わず身を竦ませた市を見て、長政が目を瞠る。
「……雷が、怖いのか」
「………」
正確には、違う。市が怖いのは、雷そのものではなく、それを使役する何者かの意思だ。だが、それを長政に上手く説明できる自信がなくて俯く。
長政はその仕草を肯定ととったのか、悩むような表情をし。数瞬躊躇った後、市の細い手を取り、力強く握った。
「……なが」
「見ろ、市」
市の言葉を遮って、長政は外を見るように促す。
握られた手をそのままに、顔を障子の方へと向けた。
「あちらの方の空が明るくなってきているだろう。つまり、もうすぐこの雨は止むということだ」
指差された方を見れば、確かにその方角は雲が薄くなり明るくなってきていた。
それが長政の言う通り雨の終わりを示しているのかは市には分からなかったが、少なくとも、怯える自分を慰め励まそうとしていることは感じ取れた。
長政様が市を心配してくれている。
側にいて、手を握って、大丈夫だと教えてくれる。
それは、雨が直に止むという事実以上に市の心を温めた。
"嬉しい"と"ありがとう"と"もう平気だ"と。それらを伝えたくて、自分より高い位置にある長政の顔を見上げて。上手く笑える自信なんてなかったけれど。それでも、微笑った。
その表情を見た長政は動きを止めて固まり。握っていた手をやや乱暴に離し、市に背を向けてしまった。
それでも、先程まで力をこめて握られていた手は、赤くなっていて。背を向けたままの長政の、黒髪の間から覗いている耳と同じ色をしていて。
あぁ、いとしい、と。
そう思えた。
いつだって、大切な"あなた"という存在。
暗雲切り裂く光の名は
突如、轟音と共に明障子を突き抜けてきた閃光に、暗く沈んだ部屋の内にいた市は視線を外へと向けた。障子を開いてみれば、自身の部屋と同様に暗く澱んだ空が広がっている。
「……雷………」
未だ低く唸り続ける雷雲を何とはなしに見上げていたら、その音に応えるように、ぽつりぽつりと雨粒が落ちてきた。疎らだったそれは、瞬く間に土砂降りとなる。
もはや豪雨といって差し支えないそれを眺めながら、これは一体誰が起こしているのだろうかと、ふと考える。
雨も雷も、全て空で起こっていることだ。ならば、それを起こしている何かも空にいるのだろう。
では、その"何か"とは何だろうか。
「……空……天、ね……」
市自身あまり詳しくはないが、異国の神などは遥か高みにある天上の世界にいるという。もしかしたら、その神とやらが起こしているのかもしれない。
もし、そうなのだとしたら。
市はくるりと首を回し、自分の周囲を見渡す。遠くの方で時折光る稲妻。止む気配のない雨。暗く、闇に包まれた世界。
こんな世界を作り出す神は、きっと怒っているに違いない。その怒りは、もしかしてあの兄に対するものだろうか。人の身でありながら魔王を名乗り、非道な振る舞いを続ける兄に。そして、その行いを正すことも止めることも出来ない、血を同じくする市への。
そう考えると、つい先程まで何でもなかった雷が、途轍もなく恐ろしいものに思えた。あの雷は、神の怒りを以って市に降り注ぐかもしれない。市という存在を消そうと、今この瞬間も狙っているのかもしれない。
俄かに身体が震え出す。揺らいだ視界に、一際強い光が焼きついて。続いてやってくるであろう轟音を聞きたくなくて、耳を手で塞いで蹲るように身体を丸めた。
「 ――― 市!? どうした!!??」
しかし、市の耳に飛び込んできたのは、雷鳴ではなく聞き覚えのある声。
そろそろと身体を起こして視線を上げると、夫である長政が慌てたようにこちらに駆け寄ってきた。
「長政様……」
「具合でも悪いのか!? 何処か怪我でもしたのか!?」
そんなことはない。そう否定の意を込めて首を横に振る。
ならば、と更に言い募ろうとした長政の言葉を遮るように、遅い雷鳴が響いた。思わず身を竦ませた市を見て、長政が目を瞠る。
「……雷が、怖いのか」
「………」
正確には、違う。市が怖いのは、雷そのものではなく、それを使役する何者かの意思だ。だが、それを長政に上手く説明できる自信がなくて俯く。
長政はその仕草を肯定ととったのか、悩むような表情をし。数瞬躊躇った後、市の細い手を取り、力強く握った。
「……なが」
「見ろ、市」
市の言葉を遮って、長政は外を見るように促す。
握られた手をそのままに、顔を障子の方へと向けた。
「あちらの方の空が明るくなってきているだろう。つまり、もうすぐこの雨は止むということだ」
指差された方を見れば、確かにその方角は雲が薄くなり明るくなってきていた。
それが長政の言う通り雨の終わりを示しているのかは市には分からなかったが、少なくとも、怯える自分を慰め励まそうとしていることは感じ取れた。
長政様が市を心配してくれている。
側にいて、手を握って、大丈夫だと教えてくれる。
それは、雨が直に止むという事実以上に市の心を温めた。
"嬉しい"と"ありがとう"と"もう平気だ"と。それらを伝えたくて、自分より高い位置にある長政の顔を見上げて。上手く笑える自信なんてなかったけれど。それでも、微笑った。
その表情を見た長政は動きを止めて固まり。握っていた手をやや乱暴に離し、市に背を向けてしまった。
それでも、先程まで力をこめて握られていた手は、赤くなっていて。背を向けたままの長政の、黒髪の間から覗いている耳と同じ色をしていて。
あぁ、いとしい、と。
そう思えた。
二人とも口調が難しいで、す・・・・。
でも好きなんです浅井夫婦。すんごい甘酸っぱいよ。そして甘いよ(意味不明)。
でも好きなんです浅井夫婦。すんごい甘酸っぱいよ。そして甘いよ(意味不明)。