市が、戦場になど出れぬ程に弱い女だったら良かったのか。
 私が、全てを屈服させられる程に強い男だったら良かったのか。

 問うまでもなく、答えなど分かりきっている。
遺言
 市に向かって放たれた銃弾からその細い体を庇ったのは、無意識の行動だった。守ろう、庇おう、そう思っての行動ではなかった。謂わば、反射的に身体が動いた、ということだ。
 だが、こうして地に伏している今、全くと言って良い程後悔の念がないのなら、無意識であったとはいえ、私自身の意思による行動でもあるのだろう。

 霞む視界に、どうにかして市を捉える。ようやく見慣れてきていたその顔は、恐怖で凍り付いていた。
 また自分の罪だと自分を責めているのだろうか。そんなことはない、これは私が自分の意志で勝手にやったことだ。
 いや、そんなことは伝えたとしても市には無意味だろう。大体にして、市が己の罪だとしている事柄は、本来市には何の責もないことばかりだ。その責は、今もこの場にいるであろう義兄や、私にある。こんな形でしか市を守れなかった、市の責を増やすことしか出来なかった私にあるのだ。
 だから、市が気に病むことなど何一つありはしないのだ。

 無意味だと知りつつも、どうにかその表情を柔らかなものにしてはくれないかと何か言葉を紡ごうとするが、声にならない。手を伸ばしてその艶やかな黒髪を撫でてやりたいと思うのに、身体が何処も動かない。
 不意に寒さを感じて、自分が死へと緩やかに近づいていることを自覚した。

 あぁ、私は此処で死ぬらしい。こんな表情をした市を一人残して。


 すまない、市。
 私は弱くはない。だが、強くもなかった。普通の、人間だったのだ。
 一人残されるくらいなら、と市が思っていることは知っていた。だが、それを叶えてやれるほど、私は強くも弱くもなかった。

 すまない、市。
 魔王の妹姫として生まれ、政略としてこんな夫に嫁がされ。
 きっと今までの市は不幸ばかりだったのだろう。だから、だからこそ、これからは幸せになれるかもしれない。幸せにしてくれる誰かに会えるかもしれない。
市のために、そのとき私のことが枷とならぬよう、この言葉は告げぬまま私は逝こう。



(あいしていた、だれよりも)



 私は、強くも弱くもなれなかった。
 だから、市と生きることも死ぬことも出来ず、市を一人残していく。市のこの先の幸せを、温かな未来を願って逝く。


 私は、強くも弱くもなれなかった。
 だから、誰もが当たり前に思い、告げるであろう言葉だけを市に遺す。



(どうか、しあわせに、いきてくれ)



 声になることはなかった言葉が、どうか少しでも市に届くように願って、重い瞼を下した。





市ストーリー1話目な感じで!!(何)
自分が市を救っていたとは微塵も思わないまま終わってしまった長政さま。