最期の、呼吸が止まるその瞬間まで。
 本当に最後まで、お前は俺のものにはならなかった。
最後の嘘を
 ごふり、と音がしそうなほど大量に、目の前の男は口から赤い液体を吐いた。
 命の証。その身体を巡る血液を。


 もう、助からない。


 何処か、自分の中の冷静な部分がそう判断する。
 いや、自分は至って平静だ。怒りも、嘆きも、悲しみもない。ただ、目の前の人物が死ぬのだと理解している。
 だが、この凪いだような感情はぴんと張り詰めた糸のようなものであり、何かが触れればそれだけで切れそうなものであることも理解していた。

 ず、とその身体から愛刀を引き抜く。相手の呻き声と共に、その傷口からも血が溢れた。
 大量の血液が失われた身体は自重を支えられず、重力に従って地へと伏す。広がっていくその液体が、その肌も、服も、地も、 ――― 夕焼けのようだと思っていた、その髪も一つの色に染めていく。それを、何だかもったいなく思う。

 仰向けに倒れた男は、荒い息のまま視線だけをこちらに向けた。ぼんやりと焦点があっていないような瞳。それでも確かに、こちらを、自分を見ている。その奥に、怒りだとか憎しみだとか恐怖だとか、そんな感情は見受けられない。
 そのことが、僅かに自分を苛立たせる。


 ずっと、この男はそうだった。
 掴めない。手に入らない。何も残さず、ただそこにいて、いなくなる。男は、自分からは少しずつ、でも確かに何かを奪い、与えていくのに。自分が差し出すものは何も受け取らず、望んだものはくれなかった。

 そして、この最期のときまで。
 自分がこの男の内側に入ることが出来ず、ただ終わらせるだけしか出来なかったということが、……こんなにも、歯痒い。

 その命を奪ったのに、この先の生を全て奪ったというのに。
 それでも、この男は自分の手には落ちてこない。


「…ね……竜の、旦那」


 苦しそうな呼吸の中、搾り出すように発せられたその声に、無様なほど肩が揺れた。震え出すのを、手の中の刀を握ることで何とか抑える。声を出せば震えるのが分かっていたから、ただ黙って見返す。
 そんなこちらの感情など全てお見通し、といった風に微笑んで。


「………ごめん」


 その言葉に、目を見開く。
 何故、何故謝る。ここが戦場である以上、戦い、殺しあうのは当然だ。自分たちは敵同士なのだから。刃を交えることを躊躇うような関係ではない筈だ。ましてや、相手を死に追いやったのは自分の方だというのに。

 そんな、戸惑いさえも見透かすように。
 この男はくすりと笑う。


「…あの、さ……俺……」


 びくり、と。
 また身体が震える。


「……あん、たの…こ……と……」


 駄目だ、聞いてはいけない。
 頭の中で警鐘が響く。逃げろ、逃げろ、と危険信号を発している。


「…す、ごく………多分…いち、ばん……」


 でも、足も手も動かない。
 動けない。



「好き…った……よ……まさむ、………ね」



 その言葉を最後に、男は事切れた。

 かしゃん、と刀が手から落ちる。手だけではなく、体中の力が抜けて。立っていられなくなって、地面に座り込む。
 震えが止まらない。身体を自分で掻き抱くようにしても、止まらない。口からは、あぁ、とかうぅ、とか、言葉にならない声が漏れている。

 何で、何で、そんなこと。思ってもいないくせに、何でそんなことを言った。
 本当に一番だと思っていたなら、こんなことになっていなかっただろう? 今、お前があいつの為に死んだりなんかしていなかっただろう? 俺の手を、拒み続けたりはしなかっただろう?
 最後まで、自分にも俺にも、嘘をつき続けはしなかっただろう?


(まさむね)


 一度だって呼ばれたことのなかった名。告げられることのなかった想い。
何で、今更。


「…う……あ、あぁ………」


 出来るなら、許されるなら。
 もっと名を呼んで欲しかった。その想いを告げて欲しかった。こんな形でなく、別の在り方を見つけたかった。


「…………佐、助………」


 この名を、生きているうちに呼びたかった。





死にネタですすみませ……!!
でも佐政佐は悲恋か死にネタだと思ってます。バッドエンド希望(お前)。
想う相手と殺しあうことになったとき、佐助は殺せなくて自分が死んで、政宗様はすぱっと殺してずるずる引きずりそうだとか(妄想)。案外幸村は、すっぱりと思い切って墓参りとかするんじゃないかと。

自分の書く文章は、いつまで経っても誰視点で誰が出てるのかがはっきりしない、ということに今更気付きました(遅)。
精進します・・・・・。