あなたの為になら、死ねると思ってた。
 ―――― 心から、そう思ってた。
ただ、あなたと。
 幾度となく繰り出される斬撃。
 それら全てを、何とか躱す。


「―――― 、っは」


 普段なら、紙一重で躱して、そのまま反撃の糸口にでもするのに、そんな余裕なんてない。情けないことに、致命傷を受けないように、その太刀筋から逃れるので精一杯だ。会得した筈の無駄のない動きなんてものは、今の俺からは欠片だって見受けられないだろう。
 それでも、まだ死なずにいられるのは、旦那に付き合ってやっていた日頃の鍛錬の賜物か。

「くっ・・・・・・・!!」

 ひゅ、という音と共に、避けきれなかった自身の柿色の髪が僅かに宙に舞う。
 今は、何とか無事に躱せているが。じわりじわりと疲労は蓄積し、僅かな傷も増えていく。


 ―――― 多分、そう長くは保たない。


 万全の状態ならば、どうとだって出来た。
 俺に命じられた仕事は、こいつが率いる隊の足止め。その仕事は充分こなしたし、倒せないなら適当に煙に巻いて逃げれば良い。いつもならば逃げるのどころか、殺す事だって楽な相手だ。だが、この疲弊状態では、それすら難しい。

「全く、ね」

 足軽なんか相手にするんじゃなかった。
 荒い息をつきながら、悪態を吐く。この隊に辿り着く前に遭遇した足軽の集団。遭遇っていっても、こっちは忍だ。見つかるようなへまなんてしていない。だから、そのまま気付かれないようにやり過ごせばよかったんだ。  でも、もし此処で見逃したこいつが旦那を怪我させたら。最悪、……殺したりしたら。

 そう思えば、見逃すことは出来なかった。


「ほーんと、貧乏くじばっかだよ、俺は」

 忍なら。そういった生き方しか知らなかった頃の俺なら。主君からの命を果たして死んでいけることを誇りだと思い、腹を括れただろう。
 でも、今の俺は。大切なものが出来てしまった俺は。
 死ぬのが、酷く、怖い。

「ヤバい、けどね」

 死ねない。
 死にたくない。


「――― すけぇ!!」

 耳に馴染んだ声がした。
 こちらに駆けてくる、その姿は、緋色。


「だん、な」


 あぁ。無事だ。
 あちこち怪我はしていても、致命傷なんて何処にも見受けられない。

 無事なんだ。

< br> 援軍の姿を認めるなり、相手は素早く近くにいた馬を駆って逃亡を図る。
 さすが、引き際は心得ているということか。


「佐助!無事か!!」


 馬の去っていた方を悔しそうに見やったが、旦那は追うことはせず、俺の方へ駆け寄ってきた。
 あぁ。生きてる。俺も、旦那も。生きてる。

 本当なら。
 いつもの俺なら、主が忍なんか探しに来ちゃ駄目でしょ、とかそんなことをいうところなんだけれど。というか、そうやって諌めなきゃいけないんだけど。
 今だけは、ただ、あんたも俺も無事だったことを喜ぼう。


「何とか生きてるよ。大丈夫」


 死んだりしない。
 あんたの、旦那の傍に、まだいたいんだ。





戦場佐幸!(何だそれ)
佐助は最期まで死ぬ覚悟なんてしないといいな!という話。
俺が死んだらあんな手間かかる旦那の世話誰がすんのよ!?という(あれ)。