ただ、黙って月を見上げる、その綺麗な横顔に。
 あぁ、やっぱりこの人の傍に居てはいけないのだ、と。そう思ってしまった。
さいごの日
「何を呆けておるのだ」


 笑い混じりの声に、はっと我に返って。呆けてたのは旦那じゃん、月なんて見上げちゃってさ、なんて誤魔化す。
 戦場での覇気や、普段の幼さが嘘のように静かな横顔。それに見惚れてました、なんて冗談でだって言えやしない。
 そんな俺の内心に構うこともなく、旦那は自分の座っている横をばしばしと叩くことで、俺に座るよう促した。

 あぁ、そういうことするときは少しくらい手加減してよね。
 そんな、畳が傷みかねないほど力一杯しないで欲しいんだけど。

 そう、思ったけど。もうそんなこと気にしなくて良いんだと、そう思い出して苦笑するに留めた。
 ……もう、俺には関係なくなること、なのだと。


「 ――――― いよいよ明日、だな」


 どくん、と。旦那のその言葉に、心臓が跳ねた。
 旦那に視線をやると、その眼はまた月を捉えていて。俺の方なんか見向きもしないで。

「………そう、だね」

 自然と下がる目線。
 旦那はそんなこと気付きもしないで、嬉しそうに続ける。

「そうだ! 明日の戦で勝てば、お館様が天下をお取りになる! 平和な世が来るのだ!!」

 平和な世。戦のない世界。誰もが望み、そして ――――― 戦忍が、……俺が、必要とされなくなる時代が来る。
 人殺しは好きじゃない。仕事だからやっているだけだ。それが『ここ』にいる唯一の手段だったから。旦那の傍に居るための、唯一の方法だったから。
 でも………もう、その理由はなくなる。


「……きっと、お館様なら良い世にしてくれるさ」


 何とか吐き出した言葉に、当然だ!と嬉しそうに笑う。いつもと変わらない。何よりも大切で、何度も俺を救ってくれた笑顔。
 その笑顔を見て、ずっと頭の片隅にあった、戦が終わらなければ、などという考えを打ち消す。

 駄目だ。あんたは、幸せにならなきゃ駄目だよ。
 その幸せのためなら。俺なんて、どうなったっていいから。
 傍に居られなくたって、死んだっていいから。


 くしゅん、と旦那が小さくくしゃみをした。

「あーあー、風邪ひいちゃうよ。もう中に入って」

 それで明日の戦に出れなかったなんて、武士の名折れもいいとこじゃん、と反論しようとした旦那を宥めて襖を閉める。ほら、さっさと寝る!なんて、いつも通り世話を焼いて。きちんと布団に入ったことを確認してから旦那の部屋を後にした。
 早々に寝付いてしまったのか、すでに静かになってしまった部屋に背を向けたまま。中にいる、大切な人を、想う。


「……ありがとう」


 俺を、「忍」という道具から「佐助」という人間に戻してくれて。
 傍で温かさを伝えてくれて。笑いかけてくれて。

 あんたを、 ――――― 好きでいさせてくれて。


「……………さよなら」


 明日、生き残っても、死んでも。
 こんな日々は、………今日で、最後。





あー……何だかよく分からなくなった……。
かすがストーリーの、「戦が終われば自分は必要となくなるから、傍に居られなくなる」というのに非常に萌えたっていう(ぇ)。で、佐助は最初からそういったことは全部承知の上で、だからこそ踏み込まないままで最後の日を迎えちゃったっていう(えぇ)。