知っていたのに。
こうなるって、知っていたのに。
徒夢
「それでも、俺はずっと旦那の忍だからさ」


 そう言って背を向ける、その姿に。
 駆け寄って、縋り付いて、嫌だと、行かないでと、そう叫びたかったけれど。その資格が自分にはないことは、痛いほど分かっていたから。躊躇い、それでも振り切るように去るその背中を追いかけたかったけれど。
 血が滲むほど両の手を握り締めて、耐えた。

 佐助。
 いつだって誰より俺を理解して、支えて。ずっと傍にいてくれた存在。

 この慕う気持ちが恋愛感情だと知ったのはいつだっただろう。そんなこと分からないくらい、この想いは自分にとって自然で、当たり前だった。
 誰より大切で、傍にいたくて、傍にいて欲しくて。離したくなくて、他の誰のものにもなって欲しくなくて、自分だけのものでいて欲しくて。
 そんな子供じみた独占欲を、嬉しいと笑ってくれる彼が大好きで。その体温に触れるだけで、泣きたいくらい幸せで。

 でも、……それも壊れてしまった。


 佐助は、これからも傍にいるだろう。変わらず世話を焼き、敵から守り、笑ってくれるだろう。
 でも、それはもう今までとは違うものだ。きっと佐助は、もう許してくれない。今までのように笑い合うことを。触れることを。・・・・この、想いを告げることを。
 主として、ただの忍として扱えと。それがどれだけ残酷なことか分かっていて、言うのだろう。

 それでも、自分は受け入れなければいけない。辛くても、泣きたくても、その望みを受け入れなければいけないのだ。
 彼にそうさせてしまったのは、・・・・・他でもない、自分なのだから。

 繋がっていた手を、先に離してしまったのは自分なのだ。あれほどその手を、その温もりを望んでいたのに。根拠のない不安に揺らいで、その手を、離したのだ。触れていた手は温かく、一度だって厭われたことはなかったのに。
 離したのは一瞬でも、それで充分だったのに。それに気付いた彼が自分の手を振り解く理由には、それで充分だと知っていたのに。
 忍の掟に縛られている彼には。そして、哀しいほど優しい、彼には。

 この関係を、自分以上に佐助が案じていたことも知っていた。主君と忍で、許される関係ではなかったから。
 いつだって、何よりも俺のことを優先する佐助だから。その想いを沈めてしまおうとしてたことも知っていた。それを無理矢理暴いて、認めさせて。何よりも厳しい、破れば死すら待っている忍の掟を破らせた。
 構わない、と言ってくれたけれど。好きだ、と笑ってくれたけれど。

 そうだ、自分は知っていた。きっと、最初から分かっていたんだ。
 好きだと言った瞬間に。好きだと言われた瞬間に。

 いつか、こんな日が来ると、何処かで気付いていた。

 自分が揺らいで、それに気付いた彼が身を引くことを。分かっていたんだ。
 ―――― それが、駄目だったのだろうか。


「……さす、け…っ…さすけ……っ」


 もう見えない背中に呼びかける。答えなどないと知っている。それでも止まらない。涙も、声も。
 どうすれば良かったのか。自分と彼では、どうあっても無理だったのだろうか。わからない。
 それでも、ただ一つ確かなのは。


(もう、泣かないでよ。ここにいるから)


 二度と、彼がそう言ってくれることはなく。
 どれだけ叫んだとしても、この想いが届くことはないという事実。





別れ話佐幸。趣味出まくりでごめんなさい本当(平謝り)。
某曲を聴いてたら「……佐幸!!」とインスパイアされて書き上げたのですが(帰れ)。
最近、何を聴いてても佐幸変換し始める自分の脳が怖い。