人形のような自分に愛を囁く男。そんな自分を滑稽だと思わぬのか、と問うたことがある。
 あぁ、そのとき。この男は何と答えたのだったか。
人形の恋
「なぁに難しい顔してんだ」


 どす、と。
 そんな音がしそうな勢いで、背に寄り掛かられる。体格差の所為で前に潰れそうになるのを堪えて首だけで振り向けば、そこには自分とぴたりと背を合わせる姿勢の元親。
 邪魔だ、という意を込めて背をずらせば、元親はそのままころりと仰向けに倒れた。全くもって、何がしたいのか理解不能だ。
 睨む、というよりは憮然とした表情になっているだろう自分を見て、またしても、どういう訳か満足そうに笑う。どうにも分からない。理解出来ない。

 そもそも、どうして元親がそんなにも己に執着するのかが分からない。
 好きだ何だと会う度に言われ続けている。嘘をついたり、ましてや駆け引きなどが出来る男ではないので、きっとその言葉は真実なのだろう。
 だが、その言葉が真実なのだとしたら。それは一体何故なのだろう、と思う。そういった色事の相手として、自分が適しているとは思えない。いつ敵として命のやり取りをすることになるか分からないという以上に、この自分を相手にしていて楽しいかという点においてだ。愛想などなく、常に相手より家を優先する。好きだなどと告げたことなど、一度だってない。
 ―――― 自分はこれほど言われているというのに。

「………」

 不意に膝に重さを感じて視線を向けると、先ほどまで畳の上に転がっていた元親が、その頭を乗せてこちらを見上げていた。
 自分が思考に沈んでいたことに不満を表すようにその表情は拗ねたものだったが、その様子に呆れて溜息を吐けば、また満足そうな表情。
 あぁ、全く理解出来ない。

「………元親」

 呼びかけに真剣なものを感じ取ったのか、元親が身体を起こし、姿勢を正す。
 視線で続きを促され、言おうか躊躇ったことを口にする。

「……我は、お前に絆されなどせぬ。お前が何をしようと、何を言おうと ―――― 我がお前に返すものなど存在せぬ」
「………」

 その言葉に元親は軽く目を瞠って。
 怒りも嘆きもすることなく、穏やかに笑って。

「……知ってる」

 その言葉に、その表情に。
 既視感を憶えて。

(……あ、)

 そうだ。あのとき、あの問いの、答えは。
 この男は。そんなことは全く思わない、と。そう言って。
 その否定が指しているのが滑稽だと思うことなのか、自分が人形のようだということなのか計りかねて。どう返したものか迷っていたら、苦笑して。

 お前は俺のことを否定しない。
 それでいい。
 きっと、それがお前の愛し方なんだろう。

 そう笑ったのだ。
 今と同じ、穏やかな、でも何処か遠くを見るような表情で。

「……元就?」

 は、と我に返ると、怪訝そうな表情の元親がいた。
 それに何でもない、と返して背を向けた。

("知ってる")

 同じようになど愛せない、と。
 そう突き放したのは己の筈なのに。

(ならば何故)

 それでもいい、と。こちらが好きなだけなのだから、と。
 自分の方が突き放された気になるだなんて。何て身勝手な。


 それでも、ちらりと様子を窺ってみれば、やはり元親は笑っていて。

 この手を、伸ばしてみても良いのだろうかと。
 そう、思った。





ウチの瀬戸内は会話少ないです、ね……アイコンタクト。どれだけ熟年夫婦なんだ・・・・!!
元就に構ってもらえて嬉しいアニキと、相手の好きの比重が遥かに重いことに罪悪感っぽいものを感じてる意地っ張りツン元就。
でもきっと両思いでできてるんですよ(何)。
元々拍手に使ってるお題用だったネタなので、拍手お礼文と微妙に話が被ってます。
気付かない振りをして下さい(お前)。