人の気配を感じて、触れていた手を離す。


「おぉ、幸村殿に佐助殿。こちらにいらっしゃったか」


 現れた男は、人のいい顔を綻ばせた。同じ武田の家臣である見知った姿に、警戒を解く。
 とはいえ、それはあくまで”侵入者”に対するものだけで、もう一つの警戒は解かない。

 ……これは、誰にも知られてはならないことなのだから。

 伝令役としてこの邸に訪れることの多いこの男は、今回もお館様からの言葉を携えていて、「すぐに参れ」とのことだった。すぐに向かう、との言葉を伝え、その男を先に向かわせる。
 姿が見えなくなったことを確認してから、二人で詰めていた息を吐き出した。


「……驚いたな……」
「急だった割に、普通に出来てたよ。成長したじゃん、旦那」


 息を吐くと同時に、離れてしまったことで何処か冷えてしまった手が、互いの熱を求めて触れ合う。
 自然と合う視線に、どちらともなく苦笑を零す。

 誰も居ない、二人きりのときだけの逢瀬。


「よし、ではお館様の下に行くか!」
「はいはい、お供しますよっと」


 誰にも知られてはいけない、誰にも祝福されることのない恋。

 それでも。
 君がいるなら、それだけで幸せ。


04. 恋の重荷も苦ではない