ごち。

 そんな音をたててぶつかったのは、額や頬や肩、腕なんかではなくて。
 自身の歯と、……佐助の、歯。

 ばっと下敷きにしていた佐助の上から飛び退いて、少し離れた地面にへたり込む。
 え、え、いま。
 うっかり転びそうになった自分を佐助が支えてくれようとして。でも勢いが付き過ぎていた所為か、支えきれず佐助が俺を庇う形で倒れこんでしまって。そして、そして。ぶつかって音がしたのは歯ではあるが、多分、確かに、その前に ――――


「あたた……大丈夫? 旦那」


 佐助の言葉にはっと顔を上げる。ぐるぐると考えている間に、佐助は既に立ち上がって傍に移動していた。
 ほら、といつも通り手を差し出してくる佐助。あまりに普通なので、もしかして”それ”まで当たったというのは自分の勘違いか、とも思うが、そんな訳はない。
 だってまだ、触れた感じが残って……


「うああぁ!!!」


 突然叫んだ自分に何事かと佐助が身構えるが、気にせず立ち上がり、そのまま歩き出す。
 佐助が普通にしているのだから、これ以上自分が取り乱す訳にはいかない。本当に触れていたにしろ、これは事故なのだ。そうだ、だから気になんかしてはいけないのだ。


「あれ……割と脈アリ?」


 落ち着こうとする心とは裏腹に、騒ぎ立てる心臓の音の所為で。
 そんな佐助の呟きは、俺の耳には届かなかった。


05. キスの副作用