「佐助、……佐助!!」

 何処か悲痛さすら感じるような声音で、未だ幼い主は俺の名を呼んだ。
 急いでその許に馳せ参じると、やっぱり泣き出しそうな顔をして居て。それでも、どうしたの、と優しく問いかけてやると安堵したように笑った。

「何でもないのだ。ただ、……姿が見えなかったのでな」

 そう言い、俺の服を掴む小さな手は微かに震えている。
 父親を亡くしたばかりのこの子供は、普段は心配させまいと気丈に振る舞っているが、たまにこうやって脆いところを曝け出す。両親共にもう亡く、ただ一人の肉親である兄は遠い地にいて。真田の名を継ぐ者としての立ち居振る舞いを求められるようになり、ただの幸村として甘えることが出来る場を次々と失って。

 だから、唯一子供として自身を扱う俺を失うことを、何処までも恐れている。

 まだ自分が武家の人間として未熟なことを、俺が忍として優れていることを知ってしまっているこの子供は、俺が真田に見切りをつけてしまうのではないかと考えているのだ。
 自分を捨て、新たな主に仕えてしまうのではないかと。

(……そんなこと、出来る訳ない)

 あんたの温かさを知ってしまった俺が、今更ただの忍に戻れる訳がない。
 冷たく暗いだけの、あんたがいない世界になんて戻りたくない。


「……俺は、此処に居るよ」


 そう囁いて、自身より大分低い位置にある頭を撫でる。
 こんな不安定なあんたを放り出して、何処に行けるっていうんだ。いつか、あんたは俺を必要としなくなるだろうけど、それまでは、……いや、その後もきっと。





(どこにもいかないよ(いけないよ))


01. どこにもいかないよ(いけないよ)