突然の雨に打たれて。
 煙ったような視界の中、お互い濡れそぼった姿で対峙している。

 ここで出逢ったのは偶然。
 偵察任務から甲斐に戻る途中、伊達軍の戦にかち合ってしまい。巻き込まれないように、と迂回しようとした結果、何故か彼に出会ってしまった。もはや戦の決着はついていたようで、総大将である竜の旦那は後方に下がっていたのだろう。

 思いがけない遭遇に、知らず舌打ちが漏れる。伊達政宗という男が無益な殺生を好まないことは知っていたし、同盟国の忍である俺を手にかけることはしないことも分かっていた。
 それでも、そんな態度になってしまったのは。


(……こっちにも、心の準備ってのが要るんだけどねぇ……)


 それはあちらも同様のようで、目を見開いて動揺を隠せないようだった。珍しいものを見た、と思うと同時に、そんな無防備な姿を晒すな、とも思う。
 互いが相手に抱いている感情については、お互い分かっている。それでも、それは認める訳にはいかないものだった。
 少なくとも、自分には。

 上手く言葉が見つからなくて、だから無言でその姿に背を向ける。
 このまま何も言わずに行かせてくれ、そんな願いは容易く打ち破られる。


「……逃げるな」


 その言葉に足を速める。
 それを見て、竜の旦那は更に叫ぶように声をあげた。


「俺から……っ、逃げるなよ…!!」


 それ以上その声を聴いていられなくて、ざっと姿を消す。
 その刹那に見えた彼の姿は、雨の所為で泣いているようで。

 あぁ、そんな風に言わないでくれ。そんな声を出さないでくれ。
 逃げる以外、どうしようもないじゃないか。例えあんたが泣いたって、その涙を拭ってやれる立場に俺はないんだよ。
 だから、だから。





(頼むから、逃げるなだなんて、そんな風に泣かないでよ)


02. 頼むから逃げないでって、そんな風に泣かないで