戦は自軍の勝利だった。兵だって、怪我人は多くとも死んだ者は僅かだった。非常に喜ぶべきことだ。
 それは分かっている。それは確かに喜んでいる。それでも。

 ――― 当たり前だが、死んだ者は零ではないのだ。


 戦をしたのだ、死者が出るのは当たり前だ。自身だってあんなに多くの敵兵を屠ったではないか。この乱世だ、武を示し敵を制圧せねばこの四国の地を守れない。守る義務がある自分は、否が応でもその戦火の中に身を投げ出し、共に闘う者たちの命を手にする。
 そしてその死すらも背負わねばならないのだ。

 分かっている、それも総大将である自分の義務だと。でも、目の前に広がる海に還した彼らのことを思うと、自分の行為の矛盾を突きつけられたような気持ちになるのだ。
 自分をアニキと慕ってくれた彼らのことは、名前も顔も、性格だってちゃんと憶えている。そんな彼らを国のために、民のために犠牲にしてしまった。彼らだって四国の民に違いはないのに。

 長曾我部家の当主として起つときに、それらを全て背負う覚悟をした筈なのに。
 こうやって一人で潮風に吹かれていると、揺れてしまう。


 名を呼ばれて振り返ると、見知った子分の姿。どうやら宴の準備が整ったので呼びに来たらしい。
 すぐに行くとだけ告げて先に戻らせ、もう一度海に視線を投げる。血の色など何処にも残っていない、ただ青く揺蕩う海。

 ふと愛しい人の面影が甦ってきて、その名を呟く。
 もうずっと会っていないが、元気にしているだろうか。少しは淋しいと思ってくれているのだろうか。いや、あいつが実は淋しがりだなんてことは知っているけれど。
 元就。元就。元就。


 波の音に混じって、歓声が聞こえてくる。恐らく自分を待ち切れず、宴が始まったのだろう。
 そう、自分にはあんなにも多くの慕ってくれる人たちがいる。それでも、こんなときに思い浮かぶのはただ一人だけだ。



「……元就………会いてぇよ」



 その呟きは海に静かにのみ込まれ。
 想いを振り切るように、陽を受けて煌めく海から目を逸らした。





(お前じゃなきゃ、駄目なんだ)


01. さびしい / 君にそばにいて欲しかったこと