す、と立ち上がった背中に、思わず伸ばしそうになった手を引っ込める。引き止めてはいけない、それはしてはいけないことだ。
触れてはいなかったのに気配で気付いたのか、佐助は半身を外に乗り出しながら振り返った。全部分かっているだろうに、それでも気付かない振りでどうしたの、と問いかけてくるこいつが心底憎くて仕方がない。
だからこそ告げる言葉に困る。本当に言いたい言葉は告げることは出来ず、もう行くのかなんて分かり切ったことを訊くのも名残惜しんでいるみたいで癪だ。
何と告げてもおかしい気がして、とん、とその身体を空に押し出す。これ以上考えていたくなかった。何をしてもこいつはもう此処から居なくなるし、こんな時間が長引けば長引いた分、後が辛くなる。
佐助はそんな俺の行動も予想の範囲内だったのだろう。黒鳥を呼び出してその足に捕まると、またね、とだけ言い残して緩やかに滑空していく。夜の闇にあってもなお霞むことのない夕日色の髪が遠のいていくのをただ黙って見続け、その色を視認出来なくなって、ようやく視線を外すことが出来た。
お笑い草だ。自分一人がこんなに振り回されている。
佐助はちゃんと割り切っている。仕事を忘れることも、立場を忘れることもない。ちゃんと忍としての仕事とこの私事を分けている。俺が敵国の領主であることを忘れはしない。
だからこそ、俺は佐助に縋ってはならない。この奥州の地を守るために。民を守るために。
別に佐助が俺を手懐けてどうこうしようと考えていると思っている訳じゃない。そんな思惑があったなら、こんなにあいつに惹かれたりなんてしない。
それでも。俺はあいつの主じゃないから。あいつの主のあの男じゃないから。
もしあの男の手だったとしたら、その手がどんな意味を持っていたとしても、躊躇いなく佐助はその手を取るのだろう。
でも、あいつは、俺が縋って伸ばした手を絶対に取らない。俺と、佐助自身のために。
だから、本当に言いたいことはあいつに伝えてはいけないことなのだ。
告げたら終わってしまう。何かが、全てが。
「……"また"、って…いつだよ」
伏せた視界に映るのは、未だ闇夜に沈む景色。
夜明けは、まだ遠い。
(それは許されることのない言葉)
触れてはいなかったのに気配で気付いたのか、佐助は半身を外に乗り出しながら振り返った。全部分かっているだろうに、それでも気付かない振りでどうしたの、と問いかけてくるこいつが心底憎くて仕方がない。
だからこそ告げる言葉に困る。本当に言いたい言葉は告げることは出来ず、もう行くのかなんて分かり切ったことを訊くのも名残惜しんでいるみたいで癪だ。
何と告げてもおかしい気がして、とん、とその身体を空に押し出す。これ以上考えていたくなかった。何をしてもこいつはもう此処から居なくなるし、こんな時間が長引けば長引いた分、後が辛くなる。
佐助はそんな俺の行動も予想の範囲内だったのだろう。黒鳥を呼び出してその足に捕まると、またね、とだけ言い残して緩やかに滑空していく。夜の闇にあってもなお霞むことのない夕日色の髪が遠のいていくのをただ黙って見続け、その色を視認出来なくなって、ようやく視線を外すことが出来た。
お笑い草だ。自分一人がこんなに振り回されている。
佐助はちゃんと割り切っている。仕事を忘れることも、立場を忘れることもない。ちゃんと忍としての仕事とこの私事を分けている。俺が敵国の領主であることを忘れはしない。
だからこそ、俺は佐助に縋ってはならない。この奥州の地を守るために。民を守るために。
別に佐助が俺を手懐けてどうこうしようと考えていると思っている訳じゃない。そんな思惑があったなら、こんなにあいつに惹かれたりなんてしない。
それでも。俺はあいつの主じゃないから。あいつの主のあの男じゃないから。
もしあの男の手だったとしたら、その手がどんな意味を持っていたとしても、躊躇いなく佐助はその手を取るのだろう。
でも、あいつは、俺が縋って伸ばした手を絶対に取らない。俺と、佐助自身のために。
だから、本当に言いたいことはあいつに伝えてはいけないことなのだ。
告げたら終わってしまう。何かが、全てが。
「……"また"、って…いつだよ」
伏せた視界に映るのは、未だ闇夜に沈む景色。
夜明けは、まだ遠い。
(それは許されることのない言葉)
03. 行かないで / 君と離れたくなかったこと
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