「今年はウチは豊作だったよ。北条さんとことかは夏前に水害があった所為か、あんまりだったみたいだけどね」
「そうか、こっちも悪くなかったぜ。小十郎の畑でも色々育ったしな」
「あ、ほんと? それじゃ、何か貰えないか交渉してから帰ろうかな」
右目の旦那の作った野菜なら、あのわがまま旦那も食べてくれるから楽なんだよねー、と佐助は笑う。夜の闇に閉ざされた中、二人を照らすのは燭台の微かな明かりだけだったが、これだけ近くにいればその表情を読み取るのは造作もない。
自身の主を我が子のように語る忍に、その苦労を垣間見た気がして、政宗もまた声を立てて笑う。
二人の逢瀬はそう頻繁ではない。だから久方ぶりに会えば会話もそこそこに互いに溺れることも多かったが、こういったような軽口を交えた会話で穏やかに夜を過ごすこともあった。
交わされる会話はまるきり色気のないものばかりだったが、それにどちらかが不平を洩らしたことはない。睦言など閨の中だけで充分だったし、相手の腹の内を探るような言葉の応酬は何ともお互いらしさを感じるものだった。
今交わしていた会話だってそうだ。作物の出来は、そのまま国力に繋がる。それを知ることで、その国の出方を推測する材料になる。
佐助は他国だけでなく甲斐の国の事情を零すこともあるが、それもあの狸のような国主は承知の上なのだろう。情に流されて自軍の不利を招くようなことをするほど佐助は愚かではない。
当然、政宗が話す奥州の事情も、軍略を立てるための情報として使われるので、おいそれと内部事情を話す訳にもいかない。かといって、当たり障りのない会話だけではつまらない。
駆け引きの中でしか感じられない緊張感。それがたまらない。
眠るなど勿体ないと言外に告げ合いながら、夜の底で互いに言葉を紡ぐ。たまに訪れる沈黙でさえ、苦ではなかった。
もしかしたら、本当はこの緊張感すらなくても満足なのかもしれない。何の情報も得られなくてもいいのかもしれない。その声を、その姿を、その体温を近くに感じられるのなら。
そんな想いを隠したまま二人は話し続ける。
交わす情報の中に、微かに想いを紛れさせながら。
(もっと、もっと声を聴かせて)
「そうか、こっちも悪くなかったぜ。小十郎の畑でも色々育ったしな」
「あ、ほんと? それじゃ、何か貰えないか交渉してから帰ろうかな」
右目の旦那の作った野菜なら、あのわがまま旦那も食べてくれるから楽なんだよねー、と佐助は笑う。夜の闇に閉ざされた中、二人を照らすのは燭台の微かな明かりだけだったが、これだけ近くにいればその表情を読み取るのは造作もない。
自身の主を我が子のように語る忍に、その苦労を垣間見た気がして、政宗もまた声を立てて笑う。
二人の逢瀬はそう頻繁ではない。だから久方ぶりに会えば会話もそこそこに互いに溺れることも多かったが、こういったような軽口を交えた会話で穏やかに夜を過ごすこともあった。
交わされる会話はまるきり色気のないものばかりだったが、それにどちらかが不平を洩らしたことはない。睦言など閨の中だけで充分だったし、相手の腹の内を探るような言葉の応酬は何ともお互いらしさを感じるものだった。
今交わしていた会話だってそうだ。作物の出来は、そのまま国力に繋がる。それを知ることで、その国の出方を推測する材料になる。
佐助は他国だけでなく甲斐の国の事情を零すこともあるが、それもあの狸のような国主は承知の上なのだろう。情に流されて自軍の不利を招くようなことをするほど佐助は愚かではない。
当然、政宗が話す奥州の事情も、軍略を立てるための情報として使われるので、おいそれと内部事情を話す訳にもいかない。かといって、当たり障りのない会話だけではつまらない。
駆け引きの中でしか感じられない緊張感。それがたまらない。
眠るなど勿体ないと言外に告げ合いながら、夜の底で互いに言葉を紡ぐ。たまに訪れる沈黙でさえ、苦ではなかった。
もしかしたら、本当はこの緊張感すらなくても満足なのかもしれない。何の情報も得られなくてもいいのかもしれない。その声を、その姿を、その体温を近くに感じられるのなら。
そんな想いを隠したまま二人は話し続ける。
交わす情報の中に、微かに想いを紛れさせながら。
(もっと、もっと声を聴かせて)
02. 寝物語をしよう
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