「お前は日輪、日輪って太陽ばっかり追いかけてるけどな、俺ァ月の方も良いと思うぜ」


 酒にはこっちのが合うしな、と手酌で自分の盃に酒を注ぎながら元親は笑った。
 その隣で酒を嗜んでいる元就とて、月が嫌いなわけではない。その静かな佇まいに心癒されるときもあるし、張りつめたような形は厭うものではない。少し前の自分は、むしろ月が好きだった。
 そう、だが。

 ちらりと横に視線を動かせば、視界に入る銀色。その髪の持ち主は、元就の視線など気にも留めず酒を呷る。ごくりと音を鳴らして嚥下すると、喉が焼けるのを楽しむかのように深く息を吐いた。
 その仕種に何故だか落ち着かなくなって、元就は向けていた視線を落とす。この感じだ。最近月を見たときと同じ、胸をかき回されるような感覚。

 言葉に表すことも、理由付けすら出来ない。それは理詰めで物事に対処する元就にとって、不快なものだった。


 月と元親で同じ感覚に襲われる理由は推測出来る。恐らく、どちらも同じ銀の光を纏っているからだ。
 だが、この感覚が銀色に由来するものなのかと問われれば、それは違う気がした。そもそも元就には銀色自体に何の思い入れもなく、理由となる事象も思いつかない。
 ならば月か元親か、そのどちらかに起因するもので、もう片方は原因を連想してしまうからあの感覚を引き起こすのだろう。


 酒でぼんやりとした頭でそこまで考えて、ゆるく首を振る。こんなこと、今更考えても仕方がない。理由など、とうに元就の中では分かっているのだ。
 恐らく、隣にいる元親も漠然と気付いているのだろう。だからこそ元就は素知らぬ顔で、月より日輪の方が良いなどと口にするのだ。

 ふと見上げた月は、変わらず銀色の優しい光を降らせて元就を包む。その色にもはや苛立ちすら感じて、部屋に戻ろうと立ち上がると眩暈が襲ってきた。どうやら飲み過ぎたらしい。
 もう寝るのか、とかけられた低い声に無言で答えて歩き出せば、少しの間を開けて足音が追ってきた。重なる足音に、また内側をかき乱される。
 理由など知ったことかと胸の内だけで吐き捨てた元就は自室の前で足を止め、足音が追い付いてくるのを待った。





(その全てが、ただ一人を思い出させる)


04. 月明かりの下で