血に塗れたまま月の光を浴びて微笑う。その姿を見て初めて、己の妻があの魔王の妹姫なのだと、長政は総毛だつような戦慄と共に理解した。
知ってはいた。その上で妻として迎え入れると決めたのだから。だが、理解してはいなかった。それをあの夜に突き付けられたのだ。
それ以来、市は長政を避けている。いや、避けているというのは違う。恐らく、長政に時間を与えているのだ。決断を下すための猶予期間を。
市は何処か、他人から距離を置かれることを当たり前と考えている節があると長政は思う。自分が異質であることを誰よりも理解し、受け入れている。夫である長政のこの戸惑いや恐れすら、彼女にとってはどうでも良い、取るに足らない出来事なのだろう。
それはきっと、市が一人であることにあまりにも慣れてしまっているからだ。だから、当然のこととして長政からの離縁を待っている。
その上で彼女をまだ此処に置いておくと決断を下すのは、生半可な覚悟で出来ることではない。それは今度こそ、魔王の妹姫への求婚となるのだ。
浅井家の当主から織田家の姫への返事なら決まっている。今更この婚姻を反故にすることなど出来はしないのだから。だが、誰と血を同じくしていようと市は市だと言い切るには、彼女の背負っているものはあまりに暗く重たい。
だからこそ、今求められているのは、長政個人の意志なのだ。魔王の血縁であろうと何であろうと、彼女と夫婦として添い遂げようという。
そこまでは分かっている。なのにその先の決断がいつまでたっても長政には出来ない。市の無言の拒絶に竦んでいるのか。彼女に相対するだけの覚悟が出来ていない自覚があるからか。
なんにせよ、己の妻である筈の彼女の目を見る勇気がない長政は、光を拒むように締め切られた彼女の部屋の前をただ通り過ぎる。
それこそが彼女の孤独を更に深めると知りながら。
(それでも、それでも私は、彼女を)
知ってはいた。その上で妻として迎え入れると決めたのだから。だが、理解してはいなかった。それをあの夜に突き付けられたのだ。
それ以来、市は長政を避けている。いや、避けているというのは違う。恐らく、長政に時間を与えているのだ。決断を下すための猶予期間を。
市は何処か、他人から距離を置かれることを当たり前と考えている節があると長政は思う。自分が異質であることを誰よりも理解し、受け入れている。夫である長政のこの戸惑いや恐れすら、彼女にとってはどうでも良い、取るに足らない出来事なのだろう。
それはきっと、市が一人であることにあまりにも慣れてしまっているからだ。だから、当然のこととして長政からの離縁を待っている。
その上で彼女をまだ此処に置いておくと決断を下すのは、生半可な覚悟で出来ることではない。それは今度こそ、魔王の妹姫への求婚となるのだ。
浅井家の当主から織田家の姫への返事なら決まっている。今更この婚姻を反故にすることなど出来はしないのだから。だが、誰と血を同じくしていようと市は市だと言い切るには、彼女の背負っているものはあまりに暗く重たい。
だからこそ、今求められているのは、長政個人の意志なのだ。魔王の血縁であろうと何であろうと、彼女と夫婦として添い遂げようという。
そこまでは分かっている。なのにその先の決断がいつまでたっても長政には出来ない。市の無言の拒絶に竦んでいるのか。彼女に相対するだけの覚悟が出来ていない自覚があるからか。
なんにせよ、己の妻である筈の彼女の目を見る勇気がない長政は、光を拒むように締め切られた彼女の部屋の前をただ通り過ぎる。
それこそが彼女の孤独を更に深めると知りながら。
(それでも、それでも私は、彼女を)
03. 他人に私が理解出来る筈がない
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