そっと伸ばされた手に瞼を閉じれば、微かに相手が微笑う気配がする。だが目を開けることはしない。その笑みが何を意味しているのか、とうに政宗は気付いているからだ。
 目を閉じていても警戒を解いていない政宗を嗤っているのではない。警戒を解かせられない佐助自身を自嘲しているのでもない。

 これは、安堵の笑みだ。
 政宗が佐助のものではない、という安心感からの笑みだ。それと同時に佐助も政宗のものではないと分かって政宗も笑みを零す。

 臆病過ぎる人間は、同じように憶病な人間にしか手を伸ばせない。手に入れたものはいつか失う日が来ることを知っている人間は、簡単に手に入るものこそを恐れる。手に入れることが容易なものは、失うこともまた容易だ。
 だからこそ、政宗は佐助を、佐助は政宗を選んで触れあう。絶対に相手が自分のものにならないと分かっているからだ。だから求め合える。

 何も始まらない不毛な関係。互いの立場と情勢を考えれば、熱情を以て触れ合うことこそ愚かなのは明らかだが、この関係だって充分愚かだ。傷を舐め合うよりも性質が悪い。
 相手に求めるのはその存在だけ。それ以外は何もいらない。何一つ手に入らなくていい。渡されるものを捨てる強さは持てないから、何も渡してこない相手を求めるだなんて。
 一人でいられなくて誰かを求める癖に、手に入れることを怖がって、こんな袋小路に入り込んでいる。しかもそんな底無し沼のような場所を居心地良く感じているだなんて。
 なんて非生産的で、なんて浅ましくて、なんて愚劣で、なんて―――。

 視覚を遮ったまま、肌だけで相手を感じる。頬にそっと触れてきた手は、冷たく乾いていた。





(ああ、なんて滑稽)


04. 独りになりたがるのは失うのが怖いから