その、声が。
名前を呼んでくれる、その声が。

泣きたいくらいに、好きだった。
04 ・ 終焉の足音
 櫻の木を背に、広場を挟んで現れた敵は10人程。
 殆どの人が鉄等の棒を持ち、銃を持っているのはわずか数人だった。

「……民間人?」

 オレの呟きに大佐が頷く。装備や格好から見て、彼らは軍人ではない。しかし、彼らから漂う殺気が、確かにオレ達を「敵」と見なしていることを教える。

「しかし、この程度なら騒ぎを起こさないほうが得策だな」

 この数なら、多少無理してでも二人で倒すべきだ。下手に敵軍に気付かれるリスクを背負うよりは、遥かに良い。
 す、と敵の一人が銃を構える。乾いた音と共に打ち出された一発の銃弾を合図に、戦闘が始まった。

 四方から振りかぶられる鉄棒を、避け、受け流し、弾き返す。機械鎧を刀状に練成してはいるが、余りに混戦過ぎて他に錬金術を使用出来ない。手を合わせ、練成する暇がないのだ。
 ち、と舌打ちをして、銃を構えていた奴に向かって殴りかかってきた男を蹴り飛ばした。二人揃って倒れこんだのを確認して、敵の囲みを身体を低くして突破する。走りながら手を合わせ、男の手から離れた銃へと手を伸ばす。バシッと練成の光が煌き、一瞬前まで銃だったものがただの鉄の塊へと姿を変えた。
 一般人であまり錬金術に馴染みがないのか、彼らに動揺が広がる。この隙を逃す手はない。すかさず人中に駆け込んで数人を殴り倒し、昏倒させる。

 ふ、と自嘲を込めて短く息をつく。もう何人もの血にこの手は染まっているというのに、今更、とも思う。
 でも、それでも。民間人である彼らを、戦争の巻き添えにして殺したくはなかった。

 まだ敵は残っている。気を抜くな、と自分に言い聞かせて彼らの方に向き直る。
 そのとき。にゃぁ、と。また、戦場に不似合いな声がした気がして。視線だけをそっちに向けると。
 そこには、あの、オレから逃げていった猫がいた。

 何でこんなところに、とかは考えなくて。ただ、守らなきゃと、そう思って、猫を流れ弾から守ろうと、その周りに土で壁を練成した。
 そっちに気をとられていた所為か。倒したと思っていた相手が起き上がって、背後から鉄棒で殴りかかってきたことに気付けなかった。

 衝撃の後、どさり、と顔に冷たい土の感触。
 あぁ、オレ死ぬのかな、とぼんやりと考えた。

「鋼の!!!!!!」

 大佐の声。いつも冷静に構えてる人なのに、珍しく焦った声。
 大佐の声、好きだったのに。もう聴けないんだな。もっと、聴いていたかったのにな。
 オレが倒れたことに気付いた奴が、銃をオレに向ける。嫌だな。まだ死ぬつもりなかったのに。



「その子に、触るな」



 鋭く響いた声に呼応するように大きな音がして、敵からオレを守るように、オレの周囲を炎が包んだ。紅く、美しい焔。まるでこの人のようだと、ずっと思っていた。
 焔。辺りを包み、闇を光に染め返す焔。敵に見つからないために、大佐はそれを一度も使わなかった。なのに、今、使った。切り札を、使ってしまった。
 本能が告げる。理由などなく、心が騒ぐ。言葉にならないが、嫌な予感がする。「駄目だ」と、「いけない」と、そう何処かが訴えているのに。大佐、とそう呼ぼうとしているのに声が出ない。身体も動かない。


「お前らの相手は、私がしてやる」


 今まで聴いたことのない、冷たい、硬い声。
 やめてくれ、そんな声、聴きたくない。


「イシュバールの英雄の、本当の意味を教えてやろう」


 その言葉を最後に、オレの意識は闇に消えた。