傍に、いて欲しかった。傍に、いたかった。
望んだものは、ただ、それだけだったんだ。
オレの言葉に、リリアさんは少し目を細めたが、何も言わずにオレの言葉を待っている。
だから、オレもそのまま続けた。
「あの人がこんな形で英雄になんてなって欲しくなかった。……オレを、置いていって欲しくなかった」
震えるかと思っていた声は、意外にもしっかりとしていて。その分、どう言ったものか迷ったが、リリアさんは何も言わない。
思ったことを言って良いんだと。言葉を選ぶ必要はないのだと、そう言われてる気がして。ずっと、誰にも言えなかった想いを、吐き出す。
「いなくなって欲しくなかった。傍にいて欲しかった。ずっと一緒にいたかったんだ」
本当は、あの時死ぬはずだったのは自分で。オレを守ろうとしなければ、あの人は死ぬことはなかった。
オレを守ったからあの人は死んだ。オレの所為であの人は死んだんだ。
「……あの人が死ぬくらいなら、―――― オレが、死んだほうが良かった」
枯れたと思っていた涙が頬を濡らす。顎をつたい、握り締めた拳に落ちる。
言葉にすると、目を背けていたものが急に現実として圧し掛かってくる。あの人が、死んだという事実。
「 ―――― っ…違う、そうじゃなくて、どっちがとかそういうことじゃなくて」
ガンガンと殴られるように痛む頭。混乱。
いろんな人の言葉が頭の中でリフレインする。
――――― 君だけでも無事で良かった ―――――
――――― 何のためにあの人は死んだ ―――――
――――― 君、を ―――――
――――― 君を守れて、……良かった ―――――
「――――― っ オレは!!!!!!」
ガンッと、力を込めすぎて白くなった拳をテーブルに叩きつける。
目の前に置かれていたカップが衝撃で倒れ、琥珀色の液体が白い木目に広がっていく。
「守ってなんか、・・・・・・欲しくなかった」
止まらない。涙も、言葉も。
でも、これこそが自分にとっての真実。誰にも言えなかった、本当の想い。
あの場面で、庇ってもらっていなかったら、あの人が自身を標的として差し出していなかったら、自分はここにいない。それに、それをしなかったらあの人が生き残れたという確証もない。もしかしたら、二人とも死んでいたかも知れない。自分かあの人か、どちらかしか選べなかったのかも知れない。
それでも、あの人に。共に生きることを諦めて欲しくなかった。死ぬことを選んで欲しくなかった。
オレは、ただ一緒にいたかったんだ。傍にいたかった。
一緒に生きられないのなら、せめて、一緒に死にたいと思えるほどに。
だから、怒りたかった。詰りたかった。オレを一人にしたあの人を。オレを置いていったあの人を。あんたの選択は、間違いだったと。
……少なくとも、オレにとっては。
こんなこと、誰にも言えなかった。ホークアイ中尉にも、ハボック少尉にも、もちろんアルにも。
皆、あの人の死を悲しんでいるのに、あの人の死なんて望んでいなかったのに。その死のきっかけを作ったオレが、どうしてその死を間違っているなんて言えるだろう。
「………良いのよ」
それまで黙ってオレの言葉に耳を傾けていたリリアさんが、ぽつりと零した。
「…他の誰がその人の死に方を肯定したとしても、あなただけは否定しても良いのよ」
その言葉は、オレに、というよりは自分自身に言い聞かせているようで。
「守られて、……残された、あなただけは」
その言葉にオレが小さく頷くのを見届けて。リリアさんは、もう一度、オレの前のカップに紅茶を注いだ。
そっと手を伸ばして咽喉を潤したそれは、記憶に残る味よりも、僅かに苦く感じた。
望んだものは、ただ、それだけだったんだ。
08 ・ 告げられなかった言葉
「オレ、は……こんなこと、望んでいなかった」オレの言葉に、リリアさんは少し目を細めたが、何も言わずにオレの言葉を待っている。
だから、オレもそのまま続けた。
「あの人がこんな形で英雄になんてなって欲しくなかった。……オレを、置いていって欲しくなかった」
震えるかと思っていた声は、意外にもしっかりとしていて。その分、どう言ったものか迷ったが、リリアさんは何も言わない。
思ったことを言って良いんだと。言葉を選ぶ必要はないのだと、そう言われてる気がして。ずっと、誰にも言えなかった想いを、吐き出す。
「いなくなって欲しくなかった。傍にいて欲しかった。ずっと一緒にいたかったんだ」
本当は、あの時死ぬはずだったのは自分で。オレを守ろうとしなければ、あの人は死ぬことはなかった。
オレを守ったからあの人は死んだ。オレの所為であの人は死んだんだ。
「……あの人が死ぬくらいなら、―――― オレが、死んだほうが良かった」
枯れたと思っていた涙が頬を濡らす。顎をつたい、握り締めた拳に落ちる。
言葉にすると、目を背けていたものが急に現実として圧し掛かってくる。あの人が、死んだという事実。
「 ―――― っ…違う、そうじゃなくて、どっちがとかそういうことじゃなくて」
ガンガンと殴られるように痛む頭。混乱。
いろんな人の言葉が頭の中でリフレインする。
――――― 君だけでも無事で良かった ―――――
――――― 何のためにあの人は死んだ ―――――
――――― 君、を ―――――
――――― 君を守れて、……良かった ―――――
「――――― っ オレは!!!!!!」
ガンッと、力を込めすぎて白くなった拳をテーブルに叩きつける。
目の前に置かれていたカップが衝撃で倒れ、琥珀色の液体が白い木目に広がっていく。
「守ってなんか、・・・・・・欲しくなかった」
止まらない。涙も、言葉も。
でも、これこそが自分にとっての真実。誰にも言えなかった、本当の想い。
あの場面で、庇ってもらっていなかったら、あの人が自身を標的として差し出していなかったら、自分はここにいない。それに、それをしなかったらあの人が生き残れたという確証もない。もしかしたら、二人とも死んでいたかも知れない。自分かあの人か、どちらかしか選べなかったのかも知れない。
それでも、あの人に。共に生きることを諦めて欲しくなかった。死ぬことを選んで欲しくなかった。
オレは、ただ一緒にいたかったんだ。傍にいたかった。
一緒に生きられないのなら、せめて、一緒に死にたいと思えるほどに。
だから、怒りたかった。詰りたかった。オレを一人にしたあの人を。オレを置いていったあの人を。あんたの選択は、間違いだったと。
……少なくとも、オレにとっては。
こんなこと、誰にも言えなかった。ホークアイ中尉にも、ハボック少尉にも、もちろんアルにも。
皆、あの人の死を悲しんでいるのに、あの人の死なんて望んでいなかったのに。その死のきっかけを作ったオレが、どうしてその死を間違っているなんて言えるだろう。
「………良いのよ」
それまで黙ってオレの言葉に耳を傾けていたリリアさんが、ぽつりと零した。
「…他の誰がその人の死に方を肯定したとしても、あなただけは否定しても良いのよ」
その言葉は、オレに、というよりは自分自身に言い聞かせているようで。
「守られて、……残された、あなただけは」
その言葉にオレが小さく頷くのを見届けて。リリアさんは、もう一度、オレの前のカップに紅茶を注いだ。
そっと手を伸ばして咽喉を潤したそれは、記憶に残る味よりも、僅かに苦く感じた。
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