これまでも、これからも。
できることならば、ずっと。
左側の温もり (2006年・年賀)
「…………寒い…」
「仕方ないだろう。ほら」

 すげなく言って、ロイはエドワードへと毛布を投げて渡す。
 受け取ったエドワードは、文句を言いながらもどうしようもないことも分かっていたので、大人しくその毛布に包まった。

 イーストシティが、記録的な大雪に見舞われたのはつい昨日のこと。強風と相まったそれは吹雪となり、各種交通機関を止める程になった。その為、昨日旅立つ予定だったエルリック兄弟は身動き取れず足止めされてしまっているのだ。
 最悪なことに、その吹雪は弱まるどころか更に強さを増して今日も猛威を振るっている。動く見込みのない列車に見切りをつけ、外の除雪を手伝うというアルフォンスを残してエドワードは資料室へと向かい。
 冬の早い夜が訪れ、街中が年越しのためへのざわめきに包まれだした頃、突然の停電がイーストシティ一帯を襲った。今年も終わろうというのに、と司令部中が情報を求めて錯綜する事態になったのだ。テロなどではなく、この天気による電線の異常と正式に原因が発表されたことで騒ぎは一段落、取り敢えずは空調設備の停止による寒さをどうにかしよう、ということになり今に至る、という訳だ。


「うぅ・・・・・・・早く直れ・・・・・・・・」

 そう呪詛のように呟いてみるが、それが誰に届く訳もなく、暗闇の中に消えてゆく。今二人がいる執務室を照らしているのは、小さな蝋燭一本のみ。その僅かな灯りから暖など取れるはずもなく、ただ毛布の中で震える。
 停電になってから結構な時間が過ぎているため、金属質である機械鎧はすでに冷え切っている。毛布も、それ自体が熱を与えてくれる訳ではないため、どうしたって結合部から身体は冷えてゆく。どうにかならないかと左手で右手を擦ってもみるが、機械鎧が温まるより生身が冷えるほうが早い。結局、エドワードには、ただただ早く電気が復旧することを祈るしかこの寒さへの対処法はないのだ。

「どうした、そんなに寒いのか」

 薄暗く、橙色の光に照らされているため顔色の判別も難しいが、すぐ隣に座っているエドワードのそんな様子にロイが気付かないはずはない。
 その手に触れようと自身の手を伸ばすが、すいとかわされる。

「この状況だぞ。寒くない訳ないだろ」
「…………」

 そう、当たり前のようにエドワードは言うが。その肩は、僅かに震えている。
 ぐい、と有無を言わせずその左手を取る。思ったとおり、いや、それ以上に触れたその場所は冷たかった。

「何故、早く言わない……!!!」

 少しの驚きと怒りと呆れと。多大な心配を声音に乗せてロイが呻く。その声に何処か嬉しさを感じながらも、エドワードはそっぽを向いて、言ってもどうしようもないだろ、と呟く。
 そう、どうしようもない。いくらロイが焔の錬金術師だといっても、ここは司令部の建物内。まさか焚き火をする訳にはいかないのだから。だから心配をかけない為に言わなかった、のだが。
 エドワードの予想外にも、ロイはふむ、と何か考え込んでいる。何だ何だ、と訝んでいると。

 ロイは、まるでそれが当たり前かのようにエドワードの身体を自分の膝の上に向かい合わせに乗せた。


「 ―――〜〜〜〜〜〜っっっっっっっ」


 言葉にならない。
 真っ赤な顔で、エドワードは様々な罵りの言葉を言おうとするが、どれ一つとしてまともな言葉にならない。

 抱っこだぞ!? 膝抱っこだぞ!!?? しかも向かい合わせで!!!!!!

 混乱の極みにいるエドワードとは対照的に、ロイは至って涼しい顔。
 むしろ、これなら温かいだろう、と満足気。


「 ――― っっはーなーせーーーー!!!!!!!!」


 やっと意味ある言葉をエドワードが発する。
 叫びながらじたばたと暴れるが、背中に回されたその腕はまったく緩む気配はなく。

「ここは!! 執務室だぞ!!!! すぐ外にはいっぱい人が居るんだぞ!!!!!」
「そうか。なら騒ぐのを止めたまえ。誰かが様子を見に来たら困るだろう」

 そうだけど!! そうだけど!!!!!! オレは間違っていないはずなのに、何でオレが負けるんだ。おかしいだろ!!!
 そうは思うが、確かに誰かに見られたい状況でないのは確かなので、しぶしぶ大人しくする。エドワードにとって、ロイの、その体温が心地良かったのも、また確かだったから。


「………今、何時?」

 赤い顔を冷ますように首を振りながらエドワードが問いかける。その子猫のような仕草に苦笑しながら火の灯りに腕時計を翳すと、すでに日付が変わるまで10分もなかった。
 年が変わる瞬間。本当なら、この瞬間に二人でいることはなかった。自分はこの場所で、エドワードは何処か遠くの町で迎えていたはずの瞬間。それを思うと、この寒さをもたらし、不便を強いてるはずの悪天候にすら感謝したくなる。大切な人の顔を、一番初めに見れることを。

 確認した時刻をエドワードに告げようとした瞬間、ふ、と灯りが揺らめいて視界が暗闇に覆われた。蝋燭の火が消えたのだ。どうやら蝋が溶けきってしまったらしい。

「あー……これじゃ、いつ年越すのか分からないな」

 全くの暗闇。時計の針など、見えるはずもない。別に楽しみにしていた訳ではないが、その瞬間が分からないとなると、ややもったいない気分になる。ちぇ、とエドワードが呟くと、上から押し殺した笑い声が聞こえる。

「……何笑ってるんだよ」
「いや・・・…君がこういったことを気にするのは珍しいな、と思っただけさ」

 笑い混じりにそう言われ、悔しさからその背中を抓ってやる。
 う、とだけ呻いてロイはまた笑う。

「………良いじゃないか」
「は?」
「時間が分からなくとも、こうして一緒に居れば、君と年が明ける瞬間を過ごせることは確かだろう?」

 そういうことじゃなくて!!と反論したかったが。様子からも声音からも、恐らくロイが優しく微笑んでいるだろうことが分かって。<エドワードと同じく、ロイもこうして一緒にこの瞬間を迎えたいと思ってくれていたことが分かって。
 自分の顔が、嬉しさで緩んでいることまで分かって。


 けれど、この想いをどう表現したら良いものか分からなくて。
 好き、とかそんな言葉じゃ足りない。もっと、もっと、深くて温かい気持ち。どうしてもそれを伝えたくて。だから暗闇に紛れて、いつもは出来ないことをしてみようと思った。
 どうせ、相手から自分の表情は見えない。だから、大丈夫。


 手で、そっとロイの輪郭を辿ってゆく。
 腕から肩、首、頬へ。

 位置を確認して。ゆっくり顔を近づけてゆく ―――――


 ぱっ。

 そんな音がしそうなほど唐突に、視界が明るくなった。電気が復旧したのだ。
 明るい白い光に照らされる中。エドワードとロイは、10センチの距離。

 驚いた顔のロイに、自分が今如何に恥ずかしい状況かを理解したエドワードは耳まで真っ赤になって。


「う………ぁ…ぅ……」
「…………エドワード?」
「……………た………」
「た?」

「大佐のばかやろーーーー!!!!!!!!!」

「何でだっ!!??」


 明るくなった司令部内。
 今年も去年と同じく、二人の叫びが響く。





明けましておめでとう話のはずだった気もします(待て)。
前振り文とタイトルと本文が全く合っていません。いっそ爽やか(そんな訳はない)。
きっとこの後エドさんは中尉の所に駆け込むんでしょう(わぁ)。