その違和感の正体は
「好きだよ」


 めったにそんなことを言わない彼だから。
 突然かけられたその言葉に、思わず目を見開いた。

「どうしたんだ、突然」

 迷惑だった?なんて笑うエドワードに、また何処かおかしなものを感じた。その言葉を嫌だとも迷惑だとも感じはしない。むしろ、望んでいた言葉だ。
 それでも、どれだけ頼んでも今まで一度だって紡がれたことのなかった言葉に、奇妙な感覚が自分を襲う。

 "これ"は、何だ?

 言い表しがたい違和感。確かに目の前に居て、笑っているのに。これが間違いなく彼だという確信があるのに。
 "何か"がおかしいのだ。

 とん、と軽い衝撃。見れば、エドワードが甘えるように抱きつき、その頬を自分の胸に摺り寄せている。
 やはり何かがおかしい。確かにエドワードなのだが、……彼ではないような、感覚。理解出来ない展開に、くらりと眩暈までしてくる。
 あぁ、何だ、何なんだ ――――


 この、非常においしい展開は。


「エドワ」

 ふわりと離れてしまった温もりに誘われるように手を伸ばし、その細い身体を抱き締めようとして。
 みしり、と的確に自身の鳩尾に蹴りこまれたそのブーツに言葉を遮られ、与えられたダメージに声を奪われる。自分に食い込んでいるその足は間違いなくエドワードのもので。でも彼の笑顔は変わっていなくて。
 ついていけない現実に、ゆっくりと意識を手放した。


「……な? 大佐の理性なんてこんなモンなんだぜ」

 エドワードがくるりと振り返り、半眼でやや睨むようにしてやれば、ハボックが隠れていたドアの陰から出てきた。その口からは苦笑しか出なかったようだ。
 普段はどうしようもないとはいえ、有事には非常に有能な上司なのだ。せめてもう少し保つと思っていたのだろう。その評価は、エドワードからすれば買い被り以外の何者でもないが。

「ま、これで賭けはオレの勝ちってことで。あそこのケーキ、少尉の奢りな!!」
「あーあー分かった! ついでにクッキーも付けてやるよ」
「マジで! 少尉、早く行こう!!」


 就業時間を少し過ぎた司令部内。
 何も知らない上司を賭けの対象にした二人がじゃれ合いながら歩いていく姿は、傍目にはとても微笑ましいものだった。