この手に持てるものは、選べるものは一つきり。
 新しいものを手に入れたいと願うならば、それがどんなに大切なものであっても今手にしているものを捨てなければならない。

 それだけの覚悟を必要とするのだ、と。頭では分かっていた。それだけの覚悟をして、過去の自分と決別したつもりだった。変わると誓った筈だった。それだけを思って、ただひたすらに頑張ってきたつもりだったのに。
 あぁ、それなのに。


(ルーク)


 こうやってガイに名前を呼ばれる度に、優しく微笑まれる度に、固めた筈の決意が揺らぐ。あの何も知らなかった頃のように、彼に甘えてしまいたくなる。ただその体温に縋って、優しくしてもらいたくなる。
 それでは変われないと分かっているのに。

 一人で歩けるようになろうと思った、誰かがいないと駄目だなんて生き方を止めようと思った、自分一人で平気になろうと思った。
 だというのに、この様は何だ。何も捨てられない、変われない。彼を、手放せない。本当に変わりたいと思うなら、彼こそを解放しなければならないのに。誰よりも自分に傷つけられていた筈の彼を。

 でも、彼を失うことを考えただけで身震いがする。それはまるで、深く暗い奈落に落されるかのような絶望感。
 手放せる筈がないのだ、だって彼は自分にとって光そのものなのだから。

 そうだ、ガイを失うくらいなら、と思う自分が確かにいるのだ。ガイさえいてくれるなら、と考えてしまう自分が。例え変われなくて他の誰の誹りを受けたとしても、ガイさえ笑ってくれるなら、俺は構わないんだ。



(世界に許されなくても良いんだ、彼さえ許してくれれば、)


4. 何かを始めるには、何かを捨てなければいけないらしい。
でもこの恋を捨てるくらいならずっとこのままで。進めなくても、いい。